5年前の大学2年生の春、好きな人が出来た。
声が綺麗で、歌が上手くて、危うさの中に芯のある、みんなに対して平等なひとつ年上の先輩。
私はこの時、初めて同性の人を好きになった。
初めて同性の人を好きに。受け入れることはそう簡単じゃなかった
それはもう大きな大きな衝撃だった。
戸惑いと恐怖で毎日が不安だらけ。
男の子を好きになってきた私には、同性愛を当事者として受け入れるための課題は山積みだった。
得体の知れない恐怖に勝てなくて、むしゃくしゃし、友達とは喧嘩をするようになった。
両親やバイト先の上司にもよく怒られるようになった。
夜中には突然1人で泣き出し、友達との飲み会をしている最中に突然徘徊して彼女の家に突撃したこともあった。
すると、次第に想いを伝えたくなってしまった。
それは好きだと自覚したあとも、絆のようなものをすくすく育んでいたからだと思う。
仲が良かった私たちは一人暮らしをしている彼女の家に頻繁に泊まりに行ったり、一緒に曲を作ってアコースティックライブをしてみたり、サークルの集まりではひときわふざけていた。
しかし、この恋の結末は、彼女を好きになった時点で私の失恋が確定していた。
彼女に相手が出来たとき、初めて自分の恋心に気づいたからだった。
相手の方はユーモラスの塊で輪の中心にいるような人気者だった。
頭の回転も早くて、面白くて、カッコよすぎず、親しみやすい先輩の男性に勝てるわけなかった。
彼女の香りを、「なんとかして掴みたい」と必死になったお泊りの日
勝てるわけが到底ないのに、絆のようなものをすくすくさせていた私は、何故かどこかで張り合えると勘違いしてしまった。
気持ちを伝えないままは終われないと思ってしまった。
バレたらどうしよう、怖いという気持ちは、彼女への信頼から全くなくなっていた。
結果、電話越しに気持ちを伝えた。
もちろん綺麗に振られるのだが、良き先輩後輩、唯一無二の先輩後輩としての関係性は保ったままで、という着地点だった。
その告白あとくらいから、彼女の香りを感じる度に全細胞が飛び跳ねるように反応するようになった。
鼻の奥から脳みそまでぐわぁっと刺激してきて、頭が真っ白になって、とろとろに溶けそうになる彼女の香り。
泊まりに行って同じベッドで寝る私は何としてもその香りだけでも掴みたい一心だった。必死にその香りを覚えとこう、と記憶した。
家の香りとか、同じシャンプーを使っていても、一生懸命記憶したあの香りとはまた違くて、多分好きなその人そのものの香りだったんだと思う。
動物的な官能的な香りだったっていう香りの輪郭を覚えてる。
同じような香りに街や電車でも出くわすと、あぁこの香り!いるの?と、ピンと来る。
その香りに出くわしたら数秒間は頭が真っ白になった。
この話を全て話した彼と付き合うことに。今は彼女に感謝している
香りに翻弄されながら、ここまでの流れを唯一話していた人がいた。
その人は「お前を引き取るよ、付き合おう」と言ってくれた人でもある。
大切に思ってくれてる人がいてくれた事で私は何とか持ち堪えられた。
たかが失恋、されど失恋。
失恋は新しい恋で、といういかにもな解決方法で私は一歩を踏み出すことが出来た。
その彼と今でもお付き合いを続けていて、今年で5年になろうとしている。
今は彼を失望させたくないし、愛おしいと思う気持ちを大切に恋愛をしている。
同時に最近は、あんなふうに盲目になるほど好きな人ができることはそうそうない事だなと、世間の広さを知ったし、
一生に一度の恋だったんだなとほろ苦い思い出にする事もできるようになった。
忘れられない香りを漂わせた彼女とは、今も良き先輩後輩として会っている。
でも、彼女と会う度に感じていたあのどうしようもない香りは、今彼女と会っても感じることはなくなった。
燃えるような恋心を教えてくれた彼女への感謝と、海のように深くて広い愛情をくれた今の彼への感謝は計り知れない。