私はセンチメンタルなものが好き。恋愛映画は結ばれない方が惹かれるし、ラブソングより失恋ソングを聞いていたい。好きな音楽を人に話すと「メンヘラなの?」と言われた事もある。
そんな私の学生の頃の口癖は、「浮気するならバレないようにしてほしい」だった。知らなければ悲しくはならないでしょ、と歌った流行りのバンドマンの影響かもしれない。
大学生の時、とても好きな人ができた。彼は干渉されることを凄く嫌う人だった。どこで何をしているとか、報告しないし気まぐれだった。お互い会いたいときに連絡するくらいが丁度良いと思っている人だった。
私はそんな余裕そうな雰囲気に惹かれてた。それとなく、こちらが好きな気持ちを漂わせて、何とか付き合うことが出来た。恋人になった後も、どこで何をしているか分からないミステリアスさに魅了され、そして翻弄され続けた。
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彼と付き合ってる時は、まるで失恋ソングのBメロの歌詞とかにありそうな体験もした。彼の家に行ったら知らない女性のアクセサリーが置いてあるとか、深夜2時に突然鳴る電話とか。なぜアクセサリーがあるのか問い詰めることも出来なかったし、深夜2時に鳴る電話も普通に数コールで出た。
そうして都合良い女性に片足を踏み入れ始めた頃、彼が他の女性と仲良く写っているところをSNSで発見。もうこれ以上はダメだなと思って別れを告げた。彼は引き留めてくれなかった。
分かっていて自分から言ったのにその日は大号泣だった。翌日から大事な旅行があったのに、写真を見ては泣いて、失恋ソングを聞いて泣いて、送れないメッセージを打っては消して、泣いて、とにかく一生分くらい泣いた。たぶん人生で、何かが終わることであれほどに泣いたのは初めてなんじゃないか、というくらい泣いた。
忘れるのにも時間がかかった。彼の家の最寄り駅を電車で通過するだけで感傷的になった。彼が好きだったアーティストは聞くことも出来なかった。彼に教えて貰ったものは遠ざけて、自分が好きだったものを意識的に集めるようにした。
そうして1年くらいかけて、新しい趣味、好きな服装、好きな髪型に出会うことが出来た。今は自分を大事にしながら、友達も恋人も家族も上手くバランスを取って、わりと精神的に安定した生活を送っている。
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大学生の頃の彼のことは今でも思い出すことがある。まるで物語のような日々だったし、多分少し誇張したら恋愛小説みたいになるのかもしれないと思う。
だけど、同時にセンチメンタルは物語の中だけで良いということも学んだ。結ばれない恋愛映画も失恋ソングも素敵だけど、負った傷はトラウマにもなり得ることも学んだ。浮気は隠されてても何故か分かることも知った。
そして何よりも平凡な日々を保つことの方が、センチメンタルを追い求めることよりも大変なことを知った。学生の頃の私からみたら、今は刺激のない毎日かもしれない。だけどあの恋愛が、あのセンチメンタルな日々があったからこそ、確実に今が大事で、今の方が充実していると思える。
自分を大切にし続けることこそが、今でも同じことばかり繰り返している彼への最大限の復讐と感謝だと思うから、今日も私は自分を幸せにする。