21歳になる春、私は就職活動に励んでいた。エントリーしていたのはすべて地元にある中小企業。私は、就職を機に地元で生きる道を選んだのだ。

対する選ばなかった道は、上京して都会人になること。田舎生まれ田舎育ちの私は、幼いころから東京への憧れが強かった。

高層ビルに囲まれて長い髪をなびかせ、最新のスマートフォンで仕事の電話をしながらヒールを鳴らしてスクランブル交差点を闊歩する。人混みをさらりとかわして満員電車にため息をつく。休日にはテレビで放送していた新しいカフェのテラス席でお茶をしながら女子トーク。そんな生活を夢見ていた。

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田舎者の考えで恥ずかしいが、東京には大手企業しか存在しないと思っていた。学歴学歴、と考え高校時代は学業に励み、何とか国立の大学に合格した。ただ、東京の家賃は勘弁してくれと両親に頼まれたので地元よりは東京が近い田舎の大学だった。

進学を機に実家を離れた。実家から離れて自由になった私は、大学の長期休みのたびに用もなく東京へ出た。「これが私の日常です」と都会人振りながら、早歩きをして狭くて高いショッピングモールで時間を過ごしていた(田舎のショッピングモールはやたらフロアが広い代わりに3階建てくらいが妥当である)。

そんな私が上京する道を選ばなかった理由は、1人での生活に自信がなかったからである。大学を卒業しても実家には頼らず自立して生きていくと決めていた。もし上京した場合、私は慣れない都会で初めての仕事に励み、頼れるあてもなく生活することになる。 "就職" が現実的になってきた頃、私はそのことがふいに怖くなった。

田舎しか知らないどんくさい私が、たった1人で東京で生きていけるだろうか。 "1人で生きていける場所" と考えたときに思いあたるのは、何度考えても地元しかなかった。もともと両親や祖父母も卒業したら地元に戻ってくることを希望していたので、私はすんなりと上京の夢を諦めた。

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再び地元で生きることになって今年で4年目。今は産休中でのんびり生活している。

もし私が東京にいたらどうだっただろうか。まず、夫と出会うことはなかった。母がちょくちょく産休の暇つぶしに付き合ってくれることもなかった。3年しか働いていない給料で、築浅の2LDKには住めなかった。1人1台車を持てなかった。

でも、東京にいたら夫と休日をどう過ごそうか1日中悩むことはなかっただろう(田舎には遊ぶ選択肢が3つくらいしかない)。……もしかしたら私にとって東京で生きるメリットはこのくらいだったかもしれない。

都会で生きるかっこいい女性には今も憧れがある。でも多分、私には向いていなかった。田舎に染まりきっている私には、高層ビルも、高いヒールも、満員電車も、お腹いっぱいでついていけなかったと思う。

都会暮らしは時々妄想するくらいにするとして、私はこの田舎町で呑気にすっぴんで子供を抱えてスーパーに行く、マイペースなお母さんになろうと思う。