私は急に思い立って行動することが好きだ。

つい最近、突拍子もなく一人旅に出たいと思い立った。何だかふいに、大阪が私のことを呼んでいると思った。あのネオンに包まれた道頓堀というものを私は見たこともなかったし、今すぐにでも行かないといけないような気がした。
その日の午後、名古屋から大阪までの乗車券をオンラインで予約したのは言うまでもない。

唐突に思い立ったことを実行することは、余計なドキドキや、躊躇を必要としないという点で、とても自分の性に合った行動だと思う。私は昔から何かを成すときに「待つ」というのが苦手で、いつかやれるなら今すぐやりたいと思うタイプだった。
大阪には、二泊三日で行こうと決めた。ちょうどいいタイミングで三連休をもらえたから、これこそ運があると思った。

◎          ◎ 

特急ひのとりで大阪に向かう道中、私は電車の中で行き交う街なみをただぼーっと眺めていた。どこにもいろんな人の人生があるのだ。みんなそれぞれ生きているのだ。深いところまでいつまでも考えられるのも、一人旅の特権だと思った。
いよいよ電車を降りたとき、「本当に来てしまった」と思った。行き交う人々の大阪弁が耳に入ったとき、私は今どこにいるのかを実感した。全部全部、「行こう」と思ったから成し遂げられたことなのだ、と。自分の行動が形になっていくこの感じが、好きなのだと思った。

だけど、急に夜になって孤独が増してきた。一人旅とはどこに行っても、何時間悩んでも怒られないという特権を持つ代わりに、何を見ても何を感じても、誰もその喜びを共有する人はいないということでもあった。
夜になって、独りきりのホテルの中から姉に電話をする始末だった。

「もう帰りたい、なんで大阪なんて一人で来ちゃったんだろう?」 

思い立って行動することを決めたのは自分なのに、なんで後悔をしてしまうんだろう、と。そんなことを思っていたら、姉が電話越しに言った。

「どうせ来たなら、とことん楽しまなきゃ」

姉の一声で、私は残されたもう一日を楽しもうと決めた。

次の日、大阪と併せて、まったく行く予定のなかった奈良にも行こうと決めた。電車でたかが府内から一時間。時間だけはあったから、どこまでも行ける気がした。
修学旅行ぶりの東大寺を見て、あの頃と変わらない大仏の迫力に魅了された。一人であろうが堂々としようと思えたのも、ようやくそのころだった。

◎          ◎ 

夜、ついにネオンの輝く道頓堀に足を運んだ。ここが私のずっと見たかった光景だ。そう思いながら橋にもたれかかって川を眺めていると、外国人夫婦に声をかけられ

た。

「あなた、おひとり?」 
そう英語で声をかけてくれた夫婦は、話してみるとハネムーン中だと知った。久しぶりに人と会話をし、嬉しくなってしまった私はたくさん拙い英語でしゃべった。

そのあとに、とんとん拍子でいろいろな人が声をかけてくれた。道頓堀効果だったのか、それとも独りでいる女が珍しかったからなのかは分からない。

色々な人とお話をしているうちに、おじさんに声をかけられた。ご飯に誘われ、今日だけならと思い、普段絶対にしないけれど知らない人とご飯に行くということも実行してみた。近くの立ち飲み屋で話したのは他愛もない話。別れ際に、人生のアドバイスと出会えた記念の怪獣のストラップをもらい、永遠に会えないさようならをしたのもいい思い出だった。

帰ってくる時に、思いもよらない逆ホームシックになった。今すぐ引き返して大阪一日目に戻りたい。だけど、私はこの思い出を胸に前に進むしかないのだと、あの時おじさんにもらったストラップを握りしめながら名古屋に帰った。