私だけの記念日は7月10日だ。私は、昨年の7月10日に今の婚約者と知り合った。

当時の私は婚活に全力を注いでいた。結婚相談所に入会してから2ヶ月くらいが経った頃だった。相談所にお世話になる前は、婚活パーティーに参加したりマッチングアプリを使用たりして婚活に励んでいた。なので、当時の婚活歴は約1年。たった1年でたくさんの男性と会い、恋に落ちかけたと思ったら振られたり、なんか違うとお断りしたり、簡単に言うと、自分自身に飽き飽きしていた時期だった。
本音を言うと、世の中の男性にも諦めを感じていた。失礼な話だということは、自覚している。

そんな色々なことに嫌気が差しはじめていたとき、彼と出会った。
結婚相談所のサイト内で彼を見つけ、条件がいいから、という理由だけでお見合いを申し込んだ。あの頃の私は、男性を見る基準が “条件” になっていた。

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駅近くのショッピングモールが待ち合わせ場所だった。私の方が先に着き、彼の到着を待っていると、白いシャツを羽織り小さなキャメル色のサコッシュを背負った彼が現れた。
「絢音さんですか?」と聞かれた。
「はい」と答えた。
もう慣れたやり取りだった。

ちなみに、そのショッピングモールは別の方とのお見合いでも何度か待ち合わせ場所として利用させてもらった。会ったら喫茶店に入ってお茶をする、というのが相談所のルールだった。大体同じ喫茶店だった。
しかし、彼のときだけはいつもの喫茶店が満員で、クロワッサンがイチオシの初めてのお店に入った。今思えば、それも運命だったのかもしれない。

その出会いから3ヶ月くらい経ち、何度かデートを重ねていた私たちは真剣交際をスタートさせた。私から申し込み、後日彼から承諾を得た。
本当のことを言うと、私の条件に完全に合致していた彼を逃すのは勿体ないと思ったから交際を申し出た。今となっては私に一切の遠慮をしない彼いわく、彼も当時は条件を満たしているからという理由で私を選んだと話していた。

また、後から聞いた話だが、彼は私と出会う少し前まで別の女性と真剣交際していたらしい。その方と上手くいかず、婚活を再開させたときに私と知り合ったという。つまり、失敗したばかりの彼と、色々なことを諦めていた私だった。
考えてみると、条件しか見ていなかった者同士、落胆していた者同士で気が合ったのかもしれない。

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それから1年後の今年の7月10日、私と彼は同棲生活をはじめたばかりだった。
不思議なものだ。わずか1年前はお互いを条件で見ていた私たちが、今では共同生活を試みるほどにしっかりと向かい合っているのだ。

その日私は、知り合った喫茶店のクロワッサンをテイクアウトした。彼に「なんでか分かる?」と尋ねたところ、案の定きょとんとされた。
記念日に疎い彼が覚えていないことは想定内だった。だから、7月10日は私だけの記念日。
「初めて会った日だよ」と伝えたが、「へえ」で終わった。全く。

私は来年も再来年も7月10日にはクロワッサンをテイクアウトし続けようと思う。そして、毎年のように「今日は何の日?」と聞き続けよう。
別に寂しい彼女ではない。寂しい妻になるとも思っていない。私は、記念日も覚えられない彼が、心から大好きだから。もう条件じゃない。
1年前は、彼を見るとき決まって勤務地や職業、学歴なんかが背景にあった。でも今は違う。私は、彼の転勤が決まったとしても転職をしたとしても彼の側にいたいと思う。彼と家族でいたいと思う。
私のクロワッサン攻撃に呑気に付き合ってくれる彼を、ずっと愛しているから。