春の風吹く曇り空、社会で活躍される方々が"実るほど、こうべを垂れる稲穂かな"を発揮されるのを横目に、いつまでも心のニキビが潰れないままの私は、最寄駅から電車で40分揺られて占い喫茶に向かった。

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ここは高校時代に、一つ下の友達が彼氏の相談をしに行ったと話していた喫茶店だ。その時は「へー、そうなんだ」と聞き流していたが、最近ずっと1人で悶々としていたため、はたと思い出した。

外観は縦に細長いレトロなビルで、濃い茶色の木造のドアを開けると先客が1人、店を後にするタイミングだった。

店主のママは細身でピンクのカーディガンを羽織っていて、パーマのロングヘアをポニーテールにし、トーンの低いアイメイクが素敵な、魔女のような方だった。

私の今執筆している小説の主人公がちょうどそのような風貌だったため、いやいやこんな偶然があるもんなのかと、心の中で笑ってしまった。

「トイレに行くからメニュー選んでおいて」と言われ、私は暗くオレンジ色のあかりが灯るカウンターに座り、メニューを見た。店内には大きな鏡がたくさん張り巡らされていた。

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戻ってきたママにオレンジティーを頼み、自分の身の上をちょっとだけ話してからタロット占いをしてもらう。2点占ってもらった。

まず、1つ目は作家として生きていく夢は叶うのか?という、作家の先生に相談したら「書き続けて賞の傾向と対策を把握して応募し続ければ、いずれ叶うよ」という答えで完結してしまいそうな事柄だ。

タロットカードを自分でシャッフルして、ママがタロットを引き、早口で、低い声で魔女のように結果を読み上げる。

「あなたは今お金がなくて、裏表が激しく二重人格で頑固、傲慢なのに心が脆くて折れやすい。あぁ、落ちるって出てるから今回応募した賞は残念だけど落選だね」

私は両手で口を押さえて「え〜当たりすぎて怖い!」とまるで占いを信じているかの如く、ウブな女の子のような素振りをした。果たしてきちんと演じ切れていたかはわからない。

「作家にはいずれなれる。そこで年上の編集者の女性と出会って、雑誌にも出られる」と言って頂いた。こういうものはポジティブな方だけ信じればいいのだろう。

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次に、彼氏とのことを占ってもらった。

作家の学校に通うことを彼氏に反対されていたため、それを話した。

「優柔不断で色恋に溺れ、色情にまみれてうまくいかない。あなたの夢を応援しない彼氏はいらない。うーん、そんな彼氏切っちゃいな!」

切っちゃいなと言われても、「はい、切ります!」と即断即決できるほど私は鬼じゃない。これで「そうだな〜、別れよう」と思う人はいるのだろうか。

次のお客さんが来たためカウンターから窓側のテーブル席に移り、三島由紀夫の仮面の告白を読んでゆっくりする。

私の地獄耳で聞いていると、どうやらお客さんは看護師で、職場の人間関係で悩んでいるということだった。

さっき私がママから言われた同じようなことをやはり言われていて、「えー、どうしよう」とカウンターに肘をついて額を指の腹で押さえて悩んでいた。人の言葉に一喜一憂するのは、人間のサガなのだろう。

でも、最後にはママは「1ヶ月後には絶対うまくいくよ〜」「40歳になったし、年の功も手伝うよ」と希望を持たせていた。

それに対してお客さんは「そうかな〜、うまくいくかな」とちょっと前向きになっていた。

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背中を押してもらいたい、カウンセリングには行きたくない、家族・友人にも話したくはないが誰かに相談したいという人には、占いというサービスはいいのかもしれない。だから古来より廃れない商いなのであろう。

話すことで浄化される何かはあるし、最終的に未来に希望を持たせてくれるから、自分と孤独に対話し続けるよりよっぽどいい。

私は席を立って、「ありがとうございました」と感謝を述べてお会計をお願いした。

「1500円ね。大丈夫、何回もやればうまくいくわよ!」と言われ、優柔不断の勉強料だと思いながらも、そのママの笑顔と言葉に励まされて、やる気が出たのもまた事実。

「またお願いします」

と言って、私は現実社会へ帰るための扉を開いて外へ出て、駅のトイレの鏡でいつか出ると言われた"雑誌向け"の笑顔を作っておいた。