2021年3月9日、夜更かしをした。
眠れなかったのではなく、朝になってほしくなかったから、わざと目を閉じなかった。

10時になれば、大学受験の結果がでる。関東の大学で1人暮らしか、実家のある北海道に残るか。これまでの1年半の努力が「合格」「不合格」のたった数文字で括られてしまうものになるのが恐ろしく、時の流れに抗おうと、夜更かしをし、1本の映画を見た。

タイムトラベルの能力を持つ主人公の青年が、人生を変えよう、過去を変えようと行動し、タイムトラベルを通して、今の大切さ、家族や大切な人と過ごす時間の輝きを知るという映画だ。
見終わったとき、自分自身の今、大切な人との時間について考えた。毎日おはようと家族と交わし、共に朝ごはんを食べ、家を出る。実家を出れば、こんな日を後何回迎えることができるんだろうか。急に、実家を出て1人暮らしをすることが怖くなった。

家族との時間が永遠じゃないという当たり前の事実が、急に現実味を帯びて頭に入り込み、今を大切にしようと思った。でも、明日の結果次第で私はこの家を出る。

◎          ◎ 

関東での生活、国立大学というブランドに憧れ、家族と過ごせる時間、今の友達と過ごせる時間を考えず受験校を決めていたことに、合格発表の10時間前に気がついた。
今考えてももう遅い。喉から手が出るほど「合格」を勝ち取りたかったはずなのに、「不合格」になったら「まだ家族といられる」とホッとしてしまうかもしれない。

上京を目指し勉強を始めた、高2の秋。
勉強と恋愛を両立できず当時付き合っていたカレに振られた、高2の冬。
コロナウイルスの緊急事態宣言で部屋にこもり毎日12時間勉強した、春。
1年後自分がどこで何をしているのかすら想像できず出口のないトンネルにいるような不安を感じ涙をこぼした、夏。
努力してるのに、ほしい結果がでなかった、秋。
先に進学先が決まった同級生の合格を喜べないほど心に余裕がなくなっていた、冬。

関東の大学を受験するという選択は正解だったのか。これが正解じゃないなら、いろんなものを犠牲に、もがき、苦しんだ、この時間はなんだったんだろうか。
今考えてももう遅い。だって、朝になれば結果はでる。

翌日、スマホで合否を確認した。

「合格」

◎          ◎ 

泣いて喜んだ。喜べたことにホッとした。同時に、「本当にこれで良かったのか」が頭から離れない。でも、行かないという選択肢はない。本当に合格したことが嬉しかった。それに、それまでの努力を家族との時間と天秤にかけ、投げ出せるほど、私にはそのエネルギーも心の強さもなかった。
家を出れば、家族と過ごせる時間は一気に減る。
後悔しないよう今を大切にしよう。

複雑な気持ちで家を出てから、4度目の春がきた。離れていても家族との時間を大切にしようと毎週のように電話した。
まだ、これが正しい選択だったかはわからない。
昨夏、北海道に住む祖父がほとんど会うこともできないうちに亡くなった。
もし、北海道にいたら亡くなる直前に会えたかもしれない。
でも、もし、上京しなければ出会えなかった人、価値観、学びがある。
「北海道にいればよかった」なんて思いたくない。自分の選択が正解だったと10年後思えるよう、今を生きたい。