「人のために生き過ぎていません?周囲に流されていますよ。もう少し自分のために生きてください」

占い師に言われた一言に、最初は何のことかよく意味がわからなかった。障害があり、将来への不安が強い分、未来予測に強い関心がある。子どもの頃からずっと、現在を楽しむというより、将来どんな大学に行っているんだろう?といった未来予測が大きなウエイトを占めていた。

だから、1人だけが言ったことにはあまり気をめないが、複数の無料占い所を廻って同じ意見だった時や、自分で調べたものと一致した時は、それを信じていた。そして見事に、「人のために生き過ぎていません?周囲に流されていますよ」というのも、2人の占い師の第一声であった。

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このどちらも自分にはしっくりこなかった。学年一強情でメンタルが強く、全ての選択を自己決定で済ませた私は誰もが認める「学年で一番流されない女」だった。

1学年62人いた女子の中で、一番流されない人は誰ですか?という質問があったなら、半数以上、いや全ての同級生が私と答えるだろう。係決め、部活動選択、高校進学……。小中高校生時代に周囲に流されることしかできない生徒を何人も見てきた中で、私は一度たりとも流されたことがなかった。

中学時代は卓球部に入部し、プレーよりも強豪選手や教師の指導方法に関心を持ち、民間チームと学校との差異を観察した。高校時代は、私の学年でただ1人百人一首部に入部した。

学部生時代は、鎌倉市に出向いて地域振興型の政策立案コンテストに出場して入賞し、卒業論文は、周囲が先行研究の検討だけで済ませる中、インタビュー調査を行った。大学院時代は、先行研究にない手法で全国から資料を取り寄せ、歴代教員をピックアップし、過程追跡方法による調査研究を行った。

自分で物事を決められない彼女らを見る度に、馬鹿馬鹿しく思っていた。

別に子育てや介護といった人のための活動をしているわけではない。人のために生きるような善良な人間でもなく、むしろかなりの自己中だ。そんな私がなぜ……。数ヶ月の間、頭の中がそのことでいっぱいになった。

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正解を思いついたのは最近だった。

私は流されているのではない。押しつけられているのだ。そしてその押しつけの当人は、私と最も距離の近い人、母親だった。

気づけば私のそばから母がいなくなったことはなかった。

入部する部活を決めるとき、進路を決めるとき、その決定権を握るのは全て母親だった。

医療系大学出身の母親曰く、文化系の大学の就職率が悪いのは、遊んで過ごした結果らしい。100以上の卑劣な言葉を聞かされて文系大学に進学できた反面、暫く自分は愚かだと思っていた。

着ていく洋服にも制限があった。私はフリルのついたガーリーものや花柄のフェミニンな服装が好きだが、母は逆で、地味な物を好んでいる。私にも「あんたにはこういうものが似合うんだよ」等と言ってはシンプルで地味なものばかり勧めてくる。色白には白とピンクが似合うのだが、それも分からず女性性を喪失させようとしている。1人暮らしをした影響で好きな服を着ることは叶ったが、シンプルな物ばかり着せようとされていた頃のトラウマは拭いきれない。

あの時のあの場面も、この場面も色々言われたっけと思うときりがない。

しかし、そんな母が時に道しるべとなることもあった。服を汚せば洗剤をしみこませて売り物のような状態に戻し、私が料理をする際は、おいしい調味料を教えてくれる。

やっぱり人生の先輩だ。だから、他の人と較べて与えられる影響が大きい分、失うことが恐ろしい。気づけば税金も社会保険も資産運用も、何もかも分からぬまま30代に突入していた。逃げるなどというのはもってのほかで、たとえ心的に苦痛であっても離れられない存在である。

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30代になって1年と少しが経ったこの頃であるが、親が亡くなったという話も周囲から聞こえ始めている。私は、母親と良好な関係を築いていた者のうちの誰よりも、母親を亡くすことを恐れているように感じる。

良好な関係を持つ者にとって母親の死とは乗り越えるもの。一方、長年支配下にあった私にとって、それは道しるべを失うことを意味している。目の前に提示されていた通路が一気に閉ざされてしまったら、私はその道をどのように切り開いて行けばよいのだろうか。

いつも指示があったから自分1人では決められない。親を亡くす者が出てきた歳になってもなお、道しるべを失った時の想像がかず、1人思い悩んでいる。

「あなたは人を見送る人です」

そう占い師に言われた時、はっとこの現実を突きつけられた。気づけば勉強や仕事といった自分のことばかりで、家庭のことは顧みずに生きてきた。それは、時には主婦として、時には養育者として私の前にはばかった者の存在が大き過ぎたことによるからだ。

私は何もできないどころか、親の死すら考えられない未熟者であった。この気づきは無駄にしてはいけないと思っている。なぜなら、道しるべに頼りすぎて自身の未熟さが露呈した瞬間だったからだ。
危機感を持たせてくれた占い師の方には感謝している。そして、現在母親との関係に悩む人がいたら、この場を持って伝えたいことがある。

第三者から客観的な意見をもらってください。