高校生の頃、私は密かに思いを馳せていた人がいた。一目惚れに近いだろう。かっこいいというよりも、仲良くなりたいと思ったのが最初だった。相手は、同じクラスになったことで始めて面識を持った。出席番号が近く、少し目線を伸ばせば彼がいる。私からは話に行けず、彼ももちろん話してこない。

ただ自分の気持ちだけが少しずつ大きくなっていくことを実感しながら時間を過ごしていた。いつも必ず思いを募らせていたわけではない。友達といるときは彼のことは忘れて、友達と遊んだり話したりすることを楽しんだ。なんとも思わなくても良かったのだが、次第に彼のことが気になる頻度が増えてきたような気もしていた。

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これが好きという感情であると気づくまでにしばらく時間がかかった。すぐに好きという感情に結びついたわけではなく、ちょっと話してみたいな、どんな人なのだろうという感じ。クラスが同じになってしばらくしても、その関係性が縮まることはなかった。

だが、事態は急に変わる。今までより、彼がかっこよく見えてきたのだ。当時放送されていたドラマに出ていた俳優に似ていると感じてからが早かった。その俳優は、ドラマの役どころとして、かなり優しいキャラクターを演じていた。番宣のバラエティーを見ていても好印象だったので、思いを馳せる彼にも同じような好印象を抱いた。

もっとしっかりと話をしてみたい、と思うようになったのだ。しかし、私はまだ好きだとは気づかない。ファンみたいなくくりだと思っていた、というか、自分に言い聞かせていた。おそらく、この時点ですでに恋をしていたのかもしれない。

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好きを自覚してからは、常にその人のことが気になってしまった。ちょっと変わったカクテルパーティー効果だ。通常は自分の名前や自分に関連することがよく聞こえるという現象だ。しかし、気になる人の名前がすぐに聞こえてしまった。いかに自分が盲目になっているかを悟る。それでも引き返せないくらい思考回路はバイアスがかかっていた。

彼が好きだと自覚してから少し経ったとき、移動教室で出席番号順に座るように指示があった。化学の授業で、4~5人が同じテーブルに座る。私は彼と同じテーブルに座った。しかも隣どうし。これは神様のいたずらだろうか。授業に集中できる気がしなかった。

心は浮かれすぎているので、途中の実験でもうわついていただろう。実験中、他愛もないことで名前を呼んでくれたときには、このまま燃え切るのではないかと思うくらいに身体が火照ったことを覚えている。

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このあと、終わりは突然にやってくる。
クラスの女子に、彼が好きなことを見透かされてしまったのではないかという疑惑が浮かんだのだ。このままでは本人に伝わってしまう。とても迷惑なことだろう、と考えた私は、片思いを辞めることにした。告白をするわけでもなく、ただ穏便に学生生活を送りたい、と思ったからだ。片思いをしながら彼を見ている感じでは、きっと振り向かない。興味すらない。きっとそうだ。根拠はないが、確信に近い答えが一瞬で出たのだ。

それからは、できるだけ通常運転で何もなかったかのように日常を過ごした。ほとぼりが冷めた頃に改めて日誌を読んでみると、ただこういう場面があった、というだけの記録に過ぎなかった。盲目になりすぎたがゆえの、私の勘違い。恥ずかしかったが、同級生には口が裂けても言えないことだ。私の中だけで消化しておくのが安全だと判断し、過去の一部として仕舞い込んだ。

卒業してからは会うことはない。これからもない。当時も、今も、私に好かれていた時期があることは、きっと彼は一生知らないだろう。それでいい。一生知らないでいてほしい。

私は、あの恋があったから、恋は本当に盲目になるのだと知った。ほんの僅かな片思いであったが、学ぶのには十分だった。自分の新しい一面を見つけられた、貴重な時間だったと思うことで青春は幕を閉じた。