生まれてから今日まで、母との思い出は数えきれないほどある。悩んでいる時は、同じように悩んで、泣いて怒って笑ってくれた。間違えたことをした時は、叱咤激励してくれた。

挙げればキリがないのだが、そんな母との思い出の中で、私と母の人生を大きく変えたもの。それは、愛犬「ラウル」と母と一緒に過ごした時間。

私と母にとって、三人で過ごした時間は、とても濃密で、かけがえのない大切なものなのだ。

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ラウルは私の十三歳の誕生日にやってきたワンコ。ゴールデン・レトリーバーという大型犬種なので、生後三ヶ月弱にして抱っこできるギリギリの大きさ。とても優しい男の子。

母は年齢的に、動物を飼うのはラウルが最後と決め、子どもの誰よりも可愛い大事な息子としてラウルを大切にした。私にとってラウルは弟のようなもので、それは可愛かったのだが、当時進学校に通っていた私は勉強の忙しさにかまけて、中高時代はあまりラウルの面倒を見ず、実質母が一人でラウルのお世話をしていた。

大学に入り時間ができると、母とラウルと三人で過ごす時間がとても増えた。朝のお散歩はいつも一緒に行き、暑い日も寒い日も、近所の公園でワンちゃん仲間とまったり過ごす。

春は桜並木を一緒に歩いた。ラウルは本当に穏やかで優しい子だったから、他の犬にも人にも愛されていた。そのことが私と母の自慢だった。

平日は「ドッグヨガ」という犬と人が一緒にできるヨガ教室に三人で参加したり、休みの日はドッグプールやドッグランに行ったりした。長期休暇は犬と泊まれる宿に行き、美味しいものを食べたり観光地に行ったりした。ラウルの身体にできものなどを見つけると二人で心配し、ネットで調べてみたり、病院に連れて行って診てもらったりした。

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ラウルのお世話は何もかも完璧に頑張ってくれていた母だが、その中でも特に力を入れていたのは、手作りご飯とおやつである。
二人で相談しながら、数多くあるドッグフードの成分や評判などをネットで調べ上げてドッグフードを選定。ラウルが年齢を重ね口に合わなくなってきたらまた良いフードに変更。ドッグフードにトッピングするものは母のこだわりのものばかり。キャベツやかぼちゃ、さつまいも……。季節の野菜をふんだんに使い、皮剥きの処理から細かく刻むところまで消化の良いようにこだわり尽くす。そして野菜を煮る際は、おやつに茹でたささみの煮汁を使って煮る。ラウルに癌の疑惑があった際は、抗酸化作用を意識して、国産の赤パプリカなどを私が探して購入。それを母が手作りごはんに加えていた。

手作りおやつにもこだわりがあり、お昼には納豆と卵のおやきを作り、夜のおやつにはさまざまな種類の魚や肉を使ったジャーキーやさつまいもスイーツを食べさせていた。魚やさつまいもも品種や産地にこだわり、母と相談しながら私がスーパーで調達していた。ラウルは持病の癲癇があったため、脳に良いとされる栄養素なども二人で調べ、おやつの食材を選定していた。

季節の行事も一緒に楽しんだ。ラウルの誕生日には母がお手製のケーキを作り、私がその材料やケーキに使うろうそくやピック、ラウルにつける被り物を百均で購入。節句には鯉のぼりを模した白米と黒胡麻などラウルが食べても問題ないものを使ったおやつを作った。

いつも二人でラウルの健康に良い食材を調べながら、クッキーやポップコーンなどたくさんのおやつを作った。

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ラウルの癲癇が酷くなってきてからは三人でリビングで寝て、夜中に異変が起きても対応できるよう備えた。私が大学にいる間以外、朝から晩まで三人一緒だった。
私が結婚を機に実家を出る直前の夏、ラウルは虹の橋を渡ってしまった。

かけがえのない存在を喪(うしな)った私と母は今もずっと悲しい。特に、子どもと等しい存在を喪った母の悲しみは私のそれと比べものにならない。

それでも、二人で二人三脚しながらラウルと過ごした日々は、今も私と母を強く繋いでくれている。