「母子家庭」という言葉を聞くと、どんなイメージがわくだろうか。貧困、かわいそう、さみしい、不幸。プラスよりもマイナスなイメージを抱く方が多いのではないだろうか。

実際にグーグルで「母子家庭」と検索すると、「母子家庭 支援」「母子家庭 手当」などの検索ワードが表示される。母子家庭は父親がいない家庭であり、金銭的な援助や、子育ての支援が必要になる場合が多いため、両親がそろっている家庭に比べると、何かが不足しているように感じられることが、一般的な考えなのかもしれない。

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私は中学生のころに父親を亡くし、いわゆる「母子家庭」で育った。一般的なイメージとは反対に、母と、3歳違いの兄と家族3人で一つ屋根の下、楽しく仲良く暮らしていた。

季節が移り替わるたびに、母は、家族が楽しめるようなメニューやイベントを用意してくれた。お正月には手作りのおせちやお雑煮、節分の豆まきや恵方巻、ひな祭りにはちらし寿司、こどもの日には柏餅、家族それぞれの誕生日パーティー、冬至にはかぼちゃの煮物やゆず湯、クリスマスのごちそうやケーキ。私はこの「季節の行事」が大好きだった。

父がいなかったことで、さみしくなかったと言ったら噓になる。高校生くらいまでは、毎月、父が亡くなった日付になると、その頃のことを思い出し、家族にばれないように一人静かに泣いていた。

友達が「パパがうざくて」といっていたら、笑って聞きながら内心ではうらやましかった。うざくても、両親そろって過ごしている環境が、欲しかった。絶対に手が届かないとわかっていても。

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しかし、父がいないことが不幸だと思ったことは一度もない。それは、母が常に愛情いっぱいに育ててくれたからだ。いつもおいしくて品数の多い手料理を用意してくれて、家族の好きなメニューや栄養バランスを考えて作られた食事。庭には、私たちが楽しめるように、色とりどりのきれいなお花を植えて、楽しそうにガーデニングしていた。

私が新卒の時にメンタルダウンしてしまい休職していた時も、責めることなど一切せずに、ただ温かく迎えてくれて、温かい食事と、清潔な部屋を用意してくれた。回復するまで一緒にそばにいてくれた。どんな話でも否定することなく聞いてくれた。

母とは、時には恋バナもしたり、一緒にスイーツを食べに行ったりと、大人になった今も親友のように仲の良い関係だ。現在は、家族3人とも別々の家に住んでいるが、たまに一緒に旅行へ出かけたり、年末年始や誰かの誕生日には必ず集まり、一緒にごちそうやケーキを食べる。私のお気に入りで幸せな時間の一つ。

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父がいなくてよかったと思ったことは一度もない。そして、絶対に自信をもって断言できるのは、私の母のもとに生まれることができて、とても幸せだということ。

環境を選んだり、変えることはできなくても、そのなかでどう生きていくかは選ぶことができる。母が私に愛情をいっぱい注いでくれたように、私も愛情深い人間になりたい。周りの人に愛を注げるように、大切な人を大切にできるように、ちゃんと愛が伝わるように。

話をきちんと聞いてくれること、好きなものを覚えていてくれること、それを用意してくれること、当たり前に感じてしまうけれど、そういう小さな積み重ねが、私にとって「大切に愛されているな」という感覚なのだと思う。

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今まで、ずっと支え続けて、励ましてくれて、いつもそばにいてくれて、どんなときも味方でいてくれて、見守ってくれた母。そんな母に、恩返しができるように、これからは私が支えていきたい。何ができるかわからないけれど、たとえば母の好きなものを買って帰ったり、話をゆっくり聞いたり。特別なことではないかもしれないけれど、今まで愛してくれた分、私もしっかり愛情を返していきたい。

今日も、大切な人に、愛を届けに生きていく。