私には持論がある。あらゆる「しんどさ」は比較から生まれるのだと。他人との比較。過去の自分との比較。理想の自分との比較。
私の就活は、しんどいものでなく、同時に非常にしんどいものであった。
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まずは他人との比較。
普通は、一緒に就活をやっていた同級生に先に内定が出ると、お祝いの言葉を言いながら、内心焦ったりするのだろう。ましてや、その会社が、自分の行きたい業界であったり会社であったりしたら、焦りを越えて僻んだりもするのかもしれない。またSNS全盛期の今では、顔も素性も知らない人の呟きで焦燥感を覚えたりするのだろう。
しかし、私の就活は、まったくと言って「他人との比較」が生まれなかった。なぜか。それは情報の真空空間だったからだ。
まず、同級生との比較。私には、大学に友人と呼べる人が、たった5人しかいない。その5人も女優になるために休学したり、体調不良や留学で1年遅らせたりなどした。その結果、私には同時期に就活するバディがいなかった。
SNSに疎いので、SNSでの就活成功体験や努力のアピールなども無縁であった。
父母についても、時代が違いすぎる。その上29歳まで大学生をやっていた父と、看護師と助産師専門学校を出ている資格職の母とは、そもそも就活の温度感が異なった。
とどのつまりは、私は精神障がい者なので、使えるものは何でも使おうと、障がい者雇用枠での就活をした。大学でも前例がなく、社会的にも超マイノリティであったため、否応なく、情報がなかった。
その結果、他人との比較がないため、私の就活はその面では、非常に精神衛生上は良いものであった。このことから、現役就活生にアドバイスするのならば、「他人軸で就活をするな。自分軸で就活せよ」ということになる。
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しかし、エゴと自意識が過剰な私は、自分軸での就活を意識しすぎるあまり、「過去の自分」「理想の自分」との比較でしんどい思いをした。
9歳の頃に出会った「アンネの日記」の影響を受けて、ジャーナリストを志していた。高校ではその夢を叶えるために、様々な経験を積み重ねた。良いジャーナリストになるために、一流の大学に入り、頑張るぞと浪人した。そのとき、精神障害である双極性障害Ⅰ型を発症した。闘病しながらなんとか2浪目にして、大学に滑り込むも、闘病しながらの学業との両立は厳しいもので、毎日の通学と課題で精いっぱいであった。
その結果、何が起きたか。
それは、長期留学も、ボランティアもインターンも、部活もサークルもない、真っ白なエントリーシートであった。もし、闘病がなければ、様々なことに挑戦して、こんなエントリーシートなど収まらないくらい、エピソードがあったのに。
今の私には誇れるものが何もない。そう、それは、「高校時代」の過去の自分との比較であった。
理想の自分は、新聞社に入社し、新聞記者の経験を積んだあと、ジャーナリストとして独立する。そんな夢を抱いていた。しかし、現実の自分はこのエントリーシートを埋めることすらできない。新聞社には、多くの優秀な全国の就活生が、魅力と自信とエピソードにあふれたエントリーシートを送ってくるのであろう。
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おじけづいた私は、新聞社にエントリーすることすらなく、内定をもらった金融機関に入社することを決めた。
「ジャーナリストになる」つまりは「文章で生きていく」のは、私の夢であった。新聞社にはねつけられ、自分の夢が「お前なんて無理だよ」とはねつけられ、夢がついえて「ジャーナリストになれなかった自分」になるくらいなら、「ジャーナリストになれたかもしれない自分」という可能性のある自分を選んだのだ。
夢の入り口にすら立つことをせず、私は逃げたのである。正しくは「ジャーナリストから逃げた自分」が正しかった。
金融機関に入社したあとも、しばらく「逃げた自分」と夢の残像に苦しめられた。新聞記者になった友人と会うと、羨ましすぎて爆発しそうだった。
しかし、入社して4年経つが、日々の仕事を丁寧に取り組むようにしていた私は、会社の中で段々と信頼を積み重ねてきた。その仕事や自分像は、逃げた私を否定するどころか、肯定していくものだった。今、私は仕事に誇りを持つことができている。
就活で内定をもらうことがゴールなのではない、むしろそこからどう働くかのスタート地点に立つものなのだ。
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今の私は、かがみよかがみや他のエッセイコンテストで文章を書き続けている。「文章で生きている」と言えるほど、稼いでいるわけではないが、今の私にとって「文章は私の生きがい」だ。ジャーナリストから逃げた私の夢は、終わったわけではないのだ。
だから、就活生にもう一度伝えたい。
他人軸ではなく、自分軸で就活せよ。でもほどほどにね。
就活で内定をもらうこと自体がゴールなのでなく、むしろスタート地点だよ。
頑張れ。頑張ろう。
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