ああ、この企業から絶対に内定をもらい、そして絶対に辞退しよう。学生という弱い立場で一矢報いるには、それしかない。
こんな暗い決意、私だってしたくなかった。

会社の二次面接時、人事担当の人柄や企業の実績にも惹かれていたのに

私の就活は、かなり計画的だったと自負している。
大学3年生の夏、こころとからだと相談をして、受けるのは最大で10社に決めた。業界は悩んだが、広告業界と人材業界のふたつにまでは絞っていた。
2017年卒の世代は、前年に大幅に就活スケジュールが見直されたタイミングで、とにもかくにも情報戦、実際のところ解禁日を守るのは一部の大企業だけで、いくつか早期選考ルートをもらうことができていた。

その日は、人材会社の二次面接だった。クローズドな就活イベントで人事担当の方から声を掛けてもらい、ハキハキとした人柄のよさと、企業の実績にも惹かれていた。なのに。
「お父さんのご職業は?」
時が止まったように思えた。大学のガイダンスで悪例として説明された質問ではなかったか。頭が真っ白になったが、なんとかバカ正直に答えたはずだ。
「もし合格したら、自費で卒業までに車の免許取ってくれる?」
瞬時にとにかくにこにこと表情を崩さないことに全神経を集中させた。
「全国転勤の可能性があるけど、大丈夫?親御さんから何か言われない?」
堪えた。腹の中からぐつぐつどろどろと、せりあがってくるような嫌悪感。私の性別が女じゃなかったとしても同じ質問をするのだろうか。
……もちろん聞き返すことはできず、「大丈夫です」と笑顔で答えた。

面接を受けた会社に内定をもらっても、ここで働くわけにはいかない

「ありがとうございました、失礼します」とドアを閉じて、やっとしっかり息を吸った。固定していた頬がひきつって、まだうまく動かない。冷や汗がにじんで、暑いような、寒いような。
落ち着こうと、ふーっと意識的に息を吐いた。ないがしろにされて、たとえ内定をいただいたとしてもここで働くわけにはいかない。できることなら、今後同じように貶められる就活生がすこしでも減ったらいい。絶対に内定をもらおう。内定をもらって、断ろう。
どうして断られたのかを考えてくれるマトモな方が社内にいるなら、多少は見直されるのではないだろうか?

私の就活は、計画的なのだ。決めてからはブレなかった。最終面接の出来も我ながらよかったと思う。役職者3名を前にして、自分自身の将来像についてのプレゼン。資料も作り込んでいたし、質疑応答も対策の通りに難なくこなし、私は内定を取り付けた。

一緒に働くかどうかを決める判断に、不必要なことは聞かないように

「ほんとうに申し訳ございません。内定は辞退させてください……」
友人と遊びに出かけた京都、茜さす鴨川沿い。事情を知っている友人が心配げに見守るなか、内定辞退を電話で申し出た。
お世話になった人事担当の方には、今でも(社会人になった今だからこそなお)申し訳なく思っている。でも、申し訳なかろうが、空しかろうが、やりきった。喉の奥にもやもやと渦巻いていたものがやっと取れた気がして、後悔はなかった。
誰も得しない就活報復劇は、最後の仕上げに母校のキャリアセンターに事の顛末を伝え、要注意企業と認定されて、ひっそりと幕を閉じた。

社会人になって思う。進むべき道を定めようと頑張っている就活生を、軽んじることのないように。一緒に働くかどうかを決める判断に、不必要なことはわざわざ聞かないように。
そして、読んでくれているかはわからないけど、就活生のあなたも。どんなに憧れの企業だったとしても、自分を大切に扱ってくれない相手を大切にする必要はないので、慌てず焦らずじっくり考えてみてください。
どうか素敵な未来があなたを待っていますように。