「お金はいりません、どうかここで働かせてください」
頭を下げて、頼み込んだ。
こんなことする人って私以外にいる?
もう手段を選んでいる場合ではなかった。
エントリーシートを提出したところで、面接まで進めず、落とされるからだ。
おそらく学歴差別で落とされていたんだと思う。
数年前までは、出身大学を偽って就職する人が多かったと聞く。
卒業証明書の提出が求められることがなく、バレなかったためである。
同じ就職難民として、正直なところ情の念が沸きそうになるが、虚偽の情報提供は法律で禁止されているので、私は絶対にしない。
◎ ◎
学生時代、就職に関して、不安や心配を感じていた人はいるだろうか。
私は、過剰と言われるほど心配だった。
心配のあまり、就職活動が本格的に始まる3年前から、就職支援センターに行った。
当たり前だが、就職支援センターのスタッフさんに「貴方がここに来るのは早すぎる、帰ってくれ」と言われた。おかげで、安心を手に入れるどころか心の傷が増えて、不安と悲しみで泣きながら帰った。
私が就職活動で一番辛かったのは、エントリーシートを書くこと。
自分の長所や強みが、さっぱりわからないのである。
家族に聞いても、「特にないね」と冷たくあしらわれる始末。
友達に聞いて、もし「特にない」と言われたら本当に立ち直れなくなると思い、勇気を出して聞くことができなかった。
結果、エントリーシートの長所欄はスカスカである。
さて、私は、就職活動をすればするほど、武器も装備もないレベル1のプレイヤーだと確信した。振り返ってみると、私以外の就活生がキラキラ輝く勇者に見えた。
我に返り、私ってこの世に何故生まれてきたんだろうかと凹み、面接中はあまりのやるせなさに涙をこらえるのに必死だった。帰宅途中の電車では、こらえきれず、しくしく泣いてしまう日もあった。駅のホームで電車を待っているときに、このまま線路に飛び込んでしまおうかと思ったことさえあった。
予想通りだった。就職はしんどかった。
もう1人でこの戦いは無理だと悟った私は、就職支援課の先生にSOSを発信した。
そして、先生は私に対して、就職説明会や就職フェスに行くことを薦めてくれたのである。
◎ ◎
就職フェスで、広報・人事の社員さんに「お金はいらないので、どうか働かせてください」と懇願し続けた。
ほとんど断られたのだが、なんと奇跡的に私に興味をもってくれる人も現れたのだ。
初めて私に興味をもってもらえた瞬間、天から救いの光のようなものが見えた。
思いのほか手応えを感じた私は、直談判することが鍵になると確信した。
その後、就職したいと思う会社にアポイントメントを取ろうとしたが、丁寧に断られる。
直接、会社に自分を売り込みに行っても、帰ってくれと門前払いされる。
散々な結果が続いた。
しかし、たまたま社長さんが居合わせていた時は、私に興味を持ってくれる方が多かった。感触もよかったように思う。
そんなことを続けていたある日、私の熱意に負けたのか、それとも、もうめんどくさいと思われたのか、とある会社で、社員さんの補助として、ボランティア活動させてもらえることになった。
奇跡である。幸運である。
◎ ◎
そこの社長さんは、働いた分のアルバイト代は出すよと言ってくれたが、まだ人の役に立つか自信がなかった私は、「お金はいりません」と頑なに断った。
結果として、その会社で3か月間、ボランティア活動をすることができた。
当時を振り返っても、私をボランティアとして受け入れてくださった社長、親切にしてくださった社員さん達の器の大きさには驚かされる。
ボランティアとして働かせてもらっている間に、この仕事は私にピッタリだと感じ、この仕事を続けると心に決めた。
そこで、私は、社長さんに「この会社で働かせてください!」と直談判した。
15回目のお願いで、私の熱意に負けたのか、それとも、しつこいと思われたのか、内定をもらうことができた。
社長さんに会うたびに「本当にこの会社でいいのかい?」と言われたが、私は心から、働くならここしかないと思った。
ボランティアとして、働かせてもらったこの会社のために役に立ちたい、恩返しをしたいという気持ちも芽生えていた。
◎ ◎
それはさておき、もう1度就職活動をしたいかと問われれば、答えはNOである。
もう一生やりたくない。
就職活動を通して気づいたことは、自分がいかにちっぽけな存在であるかということである。つまり、1人では何もできない。
その考えに至ったからこそ、人とのご縁を大切にしようと強く思うようになった。
その考えは、今も揺らいでいない。
たまに、職場の飲み会や親戚の集まりで「学生時代に戻りたいでしょう?」と質問されるが、答えは、「絶対に戻りたくない」である。
珍しいと思う人もいるだろうが、本当である。
理由は、就職に対する不安と心配に支配されていたため、学生生活がしんどかったからだ。
最後に、私は、手間のかかる性格である。
人から親切にしてもらったら、必ずお返ししたいと思うし、義理堅いと自覚しているからだ。親切にしてくれた人のことは一生忘れないし、恩は必ず返したい。
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