「ここは、悪い人たちを閉じ込めておくところですよ?」

大学4年生時の就職活動において最も衝撃的な出来事で、しんどかったことと言われて思い出すのはこの一言だろうか。

当時、講義で少し齧った心理学に関する業種での就職を試みていた。数ある選択肢の中で、国家公務員の心理職に願書を提出し、筆記試験を受け、いざ最終面接、という場面である。

一言で言えば、圧迫面接そのものであった。

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そもそも、就活というものを嫌悪していたわたしは、公務員一本で就活を行っていた。無謀である。

インターンも行かなければ、面接練習も兼ねて他の企業や職種の面接なんかも全く受けなかった。

今考えれば、全体的にもうちょっと頑張れよ、と思うところだが、当時は、本当に就活が嫌だったのである。

今でも割とそうなのだが、”面接”というものをあまり好まない。初対面の人と真正面から向き合って、面接官にウケそうなことであればあることないことツラツラとさも本音であるかのように語らい、媚び諂って、なにが楽しいのだろう。表面だけを掬った浅い世界でわたしのなにを知ったと言うのだろう。うわべだけで採用・不採用を決められてしまうあの仕組みや世界に向き合うこと自体があまりにも負担だった。

言いたいことや主旨をざっくりとまとめて、キーワードだけは選別しておき、質問の内容によってその場で頭の中だけで文章を構成し表出していくということがどうも器用にできない。一旦考えようにも、「待たせている」「何か言わなければ」という焦りで頭の中がいっぱいになり、考えることすらままならなくなってしまう。

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それならば、言わなければならないことに焦点を絞って、原稿を書いて覚えようとすると、今度は棒読みになってしまい、どうしても「対策してきました!」「暗記してきました!」というアピールになってしまう。

綺麗に繕った表面の浅い部分だけを掬ったとしても、お世辞にも「この人を採りたい」「一緒に働きたい」と思ってもらえなさそうな面接をする未来が容易に想像できたから、面接は嫌だった。

今、平常な精神状態でこのことを振り返ると、志望するしないに関わらず何社も面接を受けてしっかり場数を踏、即興で文章を組み立てることや棒読みにならないような話し方を研究する必要があったという反省ができるが、当時は「いやだ」「むり」「できない」「やりたくない」と向き合うことから逃げるしかできなかった。逆に言えば、それだけしんどかったということでもある。

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わたしが目指していた区分の公務員は幸いなことに、筆記試験である程度点数を取れれば面接に臨むことができ、その面接も一度きりで良かった。そういうのもあって、その一本にかけていた。とにかく最小限で終わらせたかった。

インターンは行かなかったけれど、たくさん勉強もしたし、その業界のことも調べた。自分なりに何度も面接練習だってして臨んだたった一度の面接が、よりにもよって圧迫面接であった。普通に質問してくれる面接官もいたと思う。そんな記憶がある。だが、あの右端にいたじじい。お前だけは許さない。

おっと、失礼。取り乱してしまった。

その公務員とは、少年院や少年鑑別所などで、非行少年たちの心理指導をするという職業である。(当時血眼になって調べただけなので実際のところは定かではないが大方間違ってはいないと思う)「更生」というのがテーマなようで、少年たちの社会復帰を目指して各々の職員がその役割を全うする、という印象である。

だとしたら冒頭の発言は何なのだろう。少なくともあのおじさんは「悪いことをした子供たち」を社会復帰させようという気はないし、「悪いことをしたから」檻の中に入れていると思っているということだろうか。

あるいは、その発言に対する「そこは、少年たちを更生させるための施設だろう」という反論を待っていたのだろうか。

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どちらにせよ、面接が開始された時点から責め立てるような質問ばかり投げつけられた挙句、あの発言では、どんな意図であれ受け入れ難い。そんなひねくれたおじさんが上司になる職場に就かなくて心底良かったと思うばかりである。

現在は、しっかり国家資格も取って、当時志していた心理学を活かした仕事に就けているので結果オーライである。そこでもいろいろな人に翻弄される毎日であることは言うまでもないが。

ただ、国家公務員になった方が懐の余裕が段違いだったのだろうと思うと、悔やまれることがあるとすればそこだけである。

喉元過ぎれば熱さを忘れるとはよく言ったもので、あんなに嫌だった就活も終わってしまえば「あんなもんかあ」と思えるが、渦中にいると本当に「しんどい」と思っていた記憶だけは鮮明だなあ、と思う。

リクルートスーツだって結局は2度しか着なかったのだし、どんな浪費よりも痛い出費だった。
そういう面でも”しんどかった”就活であった。

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