初夏の朝、私の地元である栃木県の片田舎では、青々とした木々に抱かれるようにして、キジバトがホッホッホーホーと鳴く。オカリナのような澄んだ鳴き声は、今年も蒸し暑い夏がやってきたのだなあ、と胸を膨らませるものだ。

夕闇の薄衣を借りてきたかのように、涼しい夏の夕方に散歩に出かければ、田園風景特有の甘い土のにおいが漂い、犬の遠吠えがどこからか聞こえてくる。

地元での夏はそんな特色をって、ふらりとやって来る。そんなイメージのある夏に、私がしたいことは、二つある。

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一つ目は、大人になった今、子どもの頃にしていた夏の遊びを、改めて友人達とすることだ。

子どもの頃、私は水鉄砲や水風船を用いた遊びをしたものだった。日差しがやわらかな芝生にて、水風船をぶつける。ぱしゃりと水が跳ねては、きゃーきゃーとわめく。ピタッと衣服がくっつき、心地がちょっと悪いけれど、それを上回る楽しさや、気分の高揚感が相まって、しゃぼん玉のように笑い声が響き合う。その様子は大切な思い出として、私の胸にしまってある。

今は大人になってしまったから、恥ずかしいけれど、たまにはハメをはずしてみたい。他人には迷惑をかけない程度に、ベンチでお酒とおつまみを小鳥のようについばみながら、水風船づくりにせっせと励む……。なんだか、可愛らしくて応援したくなるではないか。子ども時代とゆるやかに思い出を共有し、その思い出の「糸」を紡ぎながら、一枚の衣を織るかのように楽しむ。それが理想だ。

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二つ目にやりたいことは、ひとり旅である。大学生にもなると全国や世界中へ旅立つものかもしれないが、コロナ禍影響したこともあり、私はひとり旅をしたことがない。

ひとり旅は、目的地から交通ルートまで、自分ひとりで責任を負うことになる。一方で、他人の存在を気にすることなく、真っ白なキャンバスを彩るように、自由な旅をすることができるメリットもある。

私がひとりで訪れたい場所は、岡山県倉敷市と、長野県上田市にある、別所温泉である。

倉敷市では、倉敷美観地区に行き、まず小舟に乗って並みを眺めたいと思う。船頭の掛け声を聴き、水を漕ぐことにより生じるたしかな振動を感じ、水鳥や水草がゆらゆら浮かんでいるのを楽しむ。舟を降りたら、古民家を改装したカフェにて、旬の果物を使った美しいパフェや、美味しいコーヒーに舌鼓を打つ。町家を改装した雑貨屋もあるそうなので、丹精して作られた作家の一点物を選んで買い物もしたい。

また、初心者のひとり旅にとってありがたいことに、倉敷市の公式サイトでは、センスの良いモデルコース(一泊二日)などが用意されているのだ。そのようなモデルコースを参照しつつ、腕によりをかけた料理のごとく、満足したひとり旅をするつもりだ。

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上田市にある別所温泉は、こんまりとした温泉街である。八二五年に、比叡山延暦寺座主慈覚大師円仁により開創された霊場である「北向観音」に寄り添うようにして、ちょこちょことお土産屋が並ぶ。パリッとして、ほのかな甘さが美味しい鉱泉せんべいの食べ歩きや、かわいい看板犬と触れ合えたりすることができる。どこか懐かしさが溶け残る商店街は、なんだかほっとする。また、別所温泉には三つの共同浴場があり、安い値段で湯を楽しむことができる。

ぽっかりと浮かんだ満月を眺めながら、つるつるとお酒を飲み、旅館でのんびりと過ごす。大学生ながら、少し大人の嗜みを含んだ旅行プランは、私を奮い立たせてくれる気がする。

人生でいちばん若い日は、今日である。一瞬でも後悔のないように、「いまここ」で自分がしたいことを選択していきたい。