とにかく食べることが大好きな私。実家で母が作ってくれる料理も、行きつけのお店で自分へのご褒美に食べる料理も。何度も食べたことがあるものでも、まるで初めて食べるかのように目を輝かせ、いつもお腹と心が満たされる。

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誰かと一緒に食事をするとき、会話を楽しみながら「美味しいね」と笑い合う。それは私にとって幸せなこと。一緒に食べた料理の味も鮮明に覚えているくらい、素敵な思い出にしたい。そう思うようになったのは、ある出来事がきっかけだった。

あれは、社会人2年目のときのことだった。私は、大学卒業後も交流のあった先輩に片想いしていた。在学中はただの先輩だと思っていたのに、連絡を取り合ううちに気になる存在になっていた。

高身長でこんがり焼けた肌、爽やかな笑顔。優しい性格で、いつも温かい言葉を掛けてくれる。私が落ち込んでいるときも励ましてくれた。周りの人たちがイケメンだと言っているからではなく、私は先輩の内面を好きになった。

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ある日、私は勇気を出して食事に誘ってみた。近況を報告し合っている流れで「よかったら、ごはん行きませんか?」と、軽い感じで。メッセージを送信した後、スマホを握りしめながらずっとドキドキしていた。自分から異性を食事に誘うのは人生で初めてだったので、返事がくるまで落ち着かなかった。

少し経って先輩から「いいよ!行こう!」と返ってきたときは、飛び上がりそうなくらい嬉しかった。場所もすぐに決まり、2週間後くらいに会うことになった。仕事中も先輩と会えるのが楽しみで、そのことで頭がいっぱいだった。

そして、迎えた当日。待ち合わせ場所に来た先輩を見た瞬間、私は思わずキュンとしてしまった。お店では、緊張しすぎてなかなか私から話せずにいた。それでも学生時代を振り返りながら話のネタを絞り出し、当時の思い出話で盛り上がった。

時間はあっという間に過ぎていった。「それじゃあ、またね」「ありがとうございました」と解散した後、少し歩いて私は「あれ?」と立ち止まった。中華料理屋に行ったのは覚えてるけど、何食べたっけ?どんな味だったっけ?そう、私は緊張のあまり、料理を楽しめていなかったのだった。

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味だけでなく食べたものまで度忘れするなんて、普段の私ならあり得ないこと。たかが食事と思われるかもしれないけれど、その時間に誰とどんな風に楽しめるかは大切だと私は考えていた。

さらに、上手く会話できなくて何度か沈黙したこともあり、直感的に「隣にいてほしい人は先輩じゃないな」と気づいた。あの日以来、先輩とは連絡を取らなくなった。

家族や友人、そして私が今好きな人。一緒に食事をするときはまったく緊張しないし、会話も料理も思い切り楽しめる。先輩のときとは全然違って、本当に楽しくて幸せ。こんな時間が続いてほしいし、相手の笑顔もずっと見ていられたら嬉しいなと思う。