やっと一眼レフを買った。2ヶ月前のことだ。
今まで映画監督としてたくさんの映像を撮ってきたが、毎回カメラマンを雇っていたため、カメラを使う機会がなかった。
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きっかけは友人の結婚式で流すオープニングムービーを作ったことだった。いつものようにカメラマンを雇って撮影したのだが、映像関係に詳しくない友人は「監督が自分でカメラを回して撮るんだと思ってた」と言った。
確かに……!なんで私はカメラを握ったことがないのだろうと不思議に思った。いちおう理由はあって、カメラマンは専門職だと考えていたから。監督の仕事とは分けて考えていたため、私がカメラを握る必要はないと考えていた。……というより、カメラの勉強をするのが億劫だったから、逃げていたのだ。ここ10年くらい。
でも、ちょっとした自主制作のMVだとか、低予算の作品についてはカメラマンを雇う予算がないため参加を見送ることがままあった。考えてみれば毎回予算を誰かから出してもらえていたのは非常にありがたいことで、それが当たり前ではないのだから、自分がカメラを扱えた方がいいに決まっていた。
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それで一眼レフを購入した。それから写真を撮ったり、短い動画を撮って編集してVTRを作ってみている。これが予想外に楽しい。どうせ自分が何かにカメラを向けても、とくにいい画を撮るセンスはないと諦めていた。でも、やってみて気付いたのだが、映像の演出をしてきた経験はカメラマンとしても武器になった。
例えば人を撮るとき、生き生きとした表情を引き出すためにどういう言葉をかければいいか私は知っている。また、対象物が人でも静物でも、どういう構図で見せればそれがかっこよく映るかなんとなく想像できる。
カメラを始めて、被写体を自分なりの切り取り方で魅力的に見せることの楽しさを知った。そして、たとえ写真1枚、動画1秒であっても、私が対象に愛を持っていればそこに愛が宿るのだと知った。
とくに写真は脳にいいと思う。シャッターを切る瞬間、一瞬にしてドーパミンがドバドバでていることを感じる。多分脳の報酬系が喜んでいる。
いい瞬間を切り取れたと思ったとき、私は最高にワクワクする。めちゃくちゃ気持ちいい。その気持ちよさをみんなにも分けてあげたいほどだ。
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新しいカメラで最初にポートレート撮影したのは妹だった。よく知っている顔のはずなのに、カメラを通すと想像以上に魅力的に写った。妹の見たことがない表情をたくさん写真に収めることができた。
そのとき、思い出した。私が初めて映画を撮ったときの喜びを。よく知っている友達に出てもらったのだが、彼女を演出することで、知らなかった表情をたくさん引き出せたことが楽しかった。まだ映像制作のことを何も知らなかったのに、純粋にその姿を見ているのが楽しくて演出をしていた。
映像を作り続けて10年を超えて、もう、儲からないとか、人の意見を聞きすぎて嫌になるとか、体力的にきついとか、そういうマイナスなことばかり最近は考えるようになっていた。でも、カメラを握るという今まで避けてきたことに飛び込んでみたおかげで、そもそも何が楽しくて映画を始めたのかを思い出すことができた。
最近、本当に暑い。しかし、猛暑の中でも撮影をしていると暑さを忘れられる。そのくらい夢中になれる、楽しいことがまだまだ世の中にはあるのだと知れてよかった。
これからも魅力的な被写体に出会って、たくさんのときめきを作っていきたいと思う。学ぶことは世界を広げること。始めることは新しい自分を知ること。人生の楽しみを、どんどん増やしていきたい。