理系科目が好きだった。否、今も好きである。
だが、わたしが選んだのは文系だった。
理由はただ一つ。目指していた職業が文系だと思っていたから、である。

蓋を開けてみれば文系とも理系とも言い難く、どちらをも包含する業界だったようだが、当時は文系と信じて疑わなかった。今となってはなぜもっとよく調べた上で吟味しなかったのか甚だ疑問ではあるところだが、多分理系に進んでもなれたと思う。
文系に進んだ今もその職を生業にしているので、この仕事は職業選択において、文理選択が大きな影響を及ぼすものではなかったのだろうと思う。

◎          ◎

そしてわたしは文系科目が好きではなかった。ただ暗記するためだけにインプットして、テストの点数を取るためだけにアウトプットするという単調な作業がどうも好きになれなかったのである。
理系科目も元を辿れば暗記が必要ではあるが、その暗記したロジックからどれを用いてどのようにして解を導き出すか、その過程が大いにわたしの心をくすぐった。

理系の先生方にも惹かれていた。理系科目の授業はどれも楽しくて、真剣に授業を聞いたし、課題もそこそこ真面目に取り組んだ。対して、文系の先生は全然好きじゃなかった。文系科目が嫌いだったから先生やその授業内容も嫌いだったのか、文系の先生や授業が嫌いだったから文系科目が嫌いだったのか、今となってはどちらとも断言し難い。

◎          ◎

でも、当時の自分なりに真剣に自分の将来を見据えて、文系を選択した。その選択に悔いはない。
ただ、理系を選択していたら、今、わたしはどうなっていたのだろう、とは思う。

あんなにもなりたいと志願した今の職業にわたしは絶望している(詳細を過去のエッセイにて綴っている)。だからといって、「本当はこれがやりたかった」という職業も別にないのだ。今の仕事をスパッとやめて、別の何かを目指したいという意欲も向上心も特別ない。直感では、この仕事を続ける方が望みがある。

もしもあの時、この職に文理が関係ないということを知っていたのなら、わたしは理系に進みたかった。憧れの先生と好きなロジックを学んで、好きの幅を広げてみたかった。
何を言っているのかさっぱりわからなくて、嫌いにもなってみたかった。それでも向き合い続けて、やっぱり面白いと思ってみたかった。

ただただ、理系への未練がずっとある。

◎          ◎

人生はたぶん、だいたいのことがなんとかなる。現にわたしの人生はなんとかなっている。大学受験には失敗して浪人したけれどちゃっかり国公立大を卒業したし、大学4年生の年明けまで就職先が決まっていなかったけれど滑り込み新卒入社を果たしたし、結局は目指していた職業に就いているし、それに絶望しながらも辞めずにコツコツ続けている。
生きている。なんとかなるの体現である。

どうせなんとかなるのだから、「自分がワクワクする方」を選び取れる自分でいたいと思う。
あの時の文理選択を振り返って得るものがあるとしたらこれだろう。

なんだか恋みたいだ。
いつまでもタラタラと昇華できていないのが尚更。
次の二者択一は、迷わず、ドキドキしてワクワクする方を選び取れますように。