ナガランドという地名を皆さんは聞いたことがありますか?

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ディズニーランドでも、ララランドでもありません。ナガランドは、インドの北東に位置する州です。インドと言っても首都ニューデリーからは直線でも約1700km(東京から日本の最南端沖ノ鳥島までと同じ距離!)離れた場所です。宗教はヒンドゥー教よりもキリスト教が、言語はヒンディー語よりも英語の方が通じて、顔立ちは東南アジアや東アジアの人に近いです。きっと、一般的にイメージされる"インド"とは少し異なるでしょう。多くの日本人は聞いたこともないような場所だと思いますが、私はインド滞在中に訪れた場所の中で、ナガランドで1番日本との繋がりを強く感じました。

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ナガランドの州都、コヒマ―は山間の街です。澄んだ空気や田園風景はインドにいることを忘れさせるほどで、街中の迂曲した道は、さながら栃木のいろは坂のようです。

日本人にとって"コヒマ―"という地名は聞き慣れないものだと思いますが、コヒマの人々は日本人や日本のことをよく知っています。なぜなら、コヒマ―は第2次世界大戦中、インパール作戦の一部として、イギリス軍と日本軍の大きな衝突の舞台となったからです。戦争中に使われた戦車や、日本軍が滞在した家屋が現存しており、街の中心地には戦争の記憶を残すための共同墓地があります。また、コヒマ―を見下ろす高台には赤い大きな屋根と美しいマリア像が印象的な教会があり、そこは戦争で家族を亡くした日本軍の遺族の寄付も受けて建設されたそうです。このように、コヒマ―には今もインパール作戦の記憶が息づいています。コヒマ―の人々は日本の戦争について知っているのに、日本人である私は知らず、なんだか後ろめたい思いすら感じました。

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コヒマ―と違い、平地にあるディマプルは、ナガランド最大の都市です。コヒマ―とは異なり、チェーン店やスーパーもあり、人通りも多い街です。

そんなディマプルの中心地から車で15分ほど行った場所には、日本語を学んでいる学生たちがいます。彼らは、日本での就労――いわゆる技能実習生――を目指している学生たちです。
日本語学校ではありますが、ネイティブ、つまり日本人の先生はお1人のみで、基本的には1から日本語を学んだ方たちが先生として学生たちに日本語を教えています。また、テキストの中には90年代に作成されたものもあり、今は誰も使わないような少し古めかしい表現も例文として紹介されています。そのような限られた状況ですが、先生たちも学生たちも日々熱心に日本語を学んでいて、日本人である私にも英語ではなく日本語で会話してくれるなど、積極的に日本語を使おうという意識が伝わってきました。そのような姿を見て、私も頑張らなければいけないと鼓舞されました。

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日本語学校に滞在中、面接予定の学生の1人から「面接の助言が欲しい」との依頼を受けました。学生の身ゆえ、アルバイトの面接など数少ない経験から絞り出した助言をしつつ、彼の話を聞いて思ったのは、日本を選ぶのは単に給与や治安の良さだけでなく、日本の文化に惹かれているためだということです。英語が話せる彼らだったら、わざわざ日本語を学んで日本に来るのではなく、他の国で働く選択もできます。

しかし、その状況で日本の文化や暮らしに惹かれ、あえて日本語を勉強して日本での就労に向けて努力しているのです。そのような姿を見ていると、受け入れ国として、そんな人たちを失望させない国にする必要があると実感しました。

また、別の学生からは「なぜ日本で働く人を外国から呼ぶのに、日本人は外国で働くのだろう」と言われました。彼女は冗談のつもりだったかもしれませんが、私は笑えず、答えに窮してしまいました。基本的に、技能実習生は介護や工場など日本では"人気がない"業種に就きます。現地の言葉も英語も話せて、大学、人によっては大学院まで卒業している学生たちが、日本ではそのような業種に就くのは少し勿体ないような気もします。ですが、そもそも、介護や工場勤務といった仕事が、正当な評価をされない"人気がない"職業になっているこの構造自体が歪んでいます。このような構造や、私たちの考え方を改善するためにはどうすれば良いのか、今の私にはその答えがまだ見つかっていません。彼女にどう答えたら良いのか、その答えもまだ見つかっていません。

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正直、私は技能実習生制度には疑問を感じる部分もあります。それは今も変わっていません。しかしながら、日本語に熱心に取り組む学生たちの姿を見て、一概に否定することもできないと思いました。技能実習生は日本では曖昧な立場で、多くの問題が起こっているのも、それゆえではないでしょうか。技能実習生がぞんざいな扱いを受けているというニュースを見るたび、ナガランドで出会った学生たちのキラキラした表情を思い出して心が痛みます。日本での就労を目指して勉強している学生たちの頑張りが報われる、そんな社会にしたいと思うようになりました。

日本からはもちろん、インドからも遠い場所ナガランド。思いがけず、そんな場所で1番日本との繋がりを感じました。ナガランドで過ごした1週間のことを胸に、あの時あの場所で考えたことを忘れず、今後も過ごしていきたいです。