出会いは突然だった。
関西空港に向かう電車の中で出会ったあの子とその友達は、見た目からして旅行を終えて中国に帰るところだろうと推測できた。

電車のドア付近に立っていた私たち。
あの子はこの電車が空港まで着くのかどうか、心配している様子だった。
おせっかいな私は、英語なら通じるかな?と思い「空港までこのままいけるよ」と伝えた。
「ありがとう、あなたも今から帰るの?」
私はその質問に驚いた。ちょうど日本から韓国へ出かけようとしていたのだった。

上海の空港で待っていてくれたあの子と「また連絡するね!」と別れた

歳も近かった私たちは話が弾み、あの子と友達は中国の上海から旅行に来ていたこと、私は、今から韓国へ行き、来週は上海経由でパリへ行くことを話した。
「じゃあ来週上海での乗り換えのときに会おうよ!」と言ってくれたあの子。
来週また会えることになった。
たった9時間の上海滞在、初めての中国、ひとりでどこに行こうか悩んでいたけれど、思いがけないバディができて嬉しかった。
その場でWeChatというSNSをダウンロードし、連絡先を交換した。

次の週、上海の浦東空港に到着すると、出口で待ってくれているあの子がいた。
一度は食べてみたかったカエル料理に挑戦したり、煌めく上海の街並みを見たり、9時間の滞在はあっという間に過ぎた。
「パリに着いたら、また連絡するね!あと、日本に来るときには連絡してね。次は私が案内するから!
そう言って、上海を出発したのだった。

パリで声をかけてきた知らない女の子。私のスマホがなくなっていた

上海から11時間ほど経っただろうか、私はパリに到着していた。
なかなか出てこない荷物を待ち、そのままの足でノートルダム大聖堂に向かう。
今となっては大火事によって焼けてしまい、公開が中止されている。
ノートルダム大聖堂をひとしきり満喫した後のことだった。
知らない女の子が近寄ってきて、署名をしてほしいという。

私はこれがスリの手口だと知っていたので、「No」と言ってその場を離れようとした。
その瞬間、「署名しろって言ってるの!」と強い口調で言われて、ドンと押された。

知らない土地にひとり。
怖くなった私は早くその場を離れたかった。
そして私を押した女の子も走って逃げていった。逃げるときは数人だったから、やはり私の読み通り、グループでのスリだったようだ。

ひとまず心を落ち着かせようと思い、近くの教会に入った。
キレイなステンドグラスを見て写真を撮ろうとポケットに手をやるとスマホがない。
バックパックに入れたかな?と思い探しても見当たらない。
「やられた」
さっき押された瞬間にポケットから抜かれていたようだ。

これからヨーロッパでの2週間をどうして過ごそうか。
いろんな不安を感じながらも、ゲストハウスの人や現地の友達に助けられながら旅を続けた。
帰国してから少し経った頃、WeChatにログインできなくなっていることに気付いた。
しばらく使っていないとアカウントが凍結されてしまうらしい。

いつかまたどこかで。スリにあった話を、あの子と笑い話にしたい

私はもう、あの子に連絡を取ることができなくなってしまった。
そして上海で一緒に撮った写真もすべてパリですられたあのスマホの中にしかない。
もう自分の頭の中の記憶でしかあの楽しかった思い出を振り返ることができない。

それでも、5年経った今も、この時期になると思い出してしまう。
そしてこんな世の中になって、自由に旅行することも難しくなってしまったけれど、もしかしたらいつかまたばったりどこかで会えるんじゃないかと少し期待している私がいる。

もしあの子に会えたなら、あの子と上海でお別れした後スリにあった話を笑い話にしたい。
そしてお互いの5年間の穴埋めをしたい。
あの子はどこかで元気に暮らしているのだろうか。
そうだったらいいな。