何か良いことないかな、楽しいことないかな……無趣味の私は子供の車椅子を押しながら、今後の行く末について後ろ向きな気持ちになっていた。

何かを変えたくて、仕事に向かう電車の中でサブスクミュージックを聴き始めた。

スピッツは大好きだったが当時飽きるほど聴いてしまったから今はいいや、疲れてしまうから歌詞も無い方がいいな、昔やってたクラリネットが聴きたいな、でもクラシックは重い……、結局ボサノバに行き着くのか……、ランダムに聴いていくと北村英治さんの「ハッピー・クッキング」が気になった。

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なんなんだこれは?!調べるとジャズクラリネットの人だとわかった。アルバムを色々聴き始めて、ジャズの心地よさ気持ちよさに圧倒された。他のジャズクラリネット奏者についても調べ、youtubeをかぶりつきながら視聴していた。

いつしか10年ほど仕舞いこんでいたクラリネットを楽器屋で調整してもらい、銀座にいって北村英治さんを聴きにも行ってしまった。味わいのある音色や楽器の調和、昭和レトロな空間に興奮と感動でいっぱいだった。

そして、自分も吹きたいと思いジャズクラリネットを習い始めていた。レッスンではクラリネットの基本の吹き方と、ジャズを吹くコツを教えてもらっている。

吹きたい曲について相談すると先生からはたくさんの知識や技がでてくる。ジャズオタクでないとこのような素晴らしい奏者にはなれないんだなとこの頃強く感じる。そして、自分に心酔して演奏するのではなく、ここの部分素敵なんですよ!とお客さんと共有する気持ちが大切だと話していたのには、さすがプロだなと思った。

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ジャズの中にもジャンルがあることや素晴らしいジャズ奏者がたくさんいること、意外にも歴史は浅く、でも凝縮されていること、ジャズとは切り離せない黒人差別のこと、驚きでいっぱいだった。

ジャズをかじってみて、一気に生活が彩られた。ジョージルイス、ベニーグッドマンやアーティショウ、バディデフランコ、ケニーダバーンやケンペプロフスキーなどクラリネットも好きだがテナーサックスにもドキドキした。レスターヤングやデクスターゴードン、ソニーロリンズ、ズートシムズ……あの渋いサウンドは一体どうやって出しているのか非常に気になるが、テナーサックスまでは練習する時間が持てないため吹くことは断念した。

私の子どもは小学生だがてんかんと知的障害がある。電車の改札をみると嬉しくなり「キャー!」と大きな声を出し、周りが何事かと驚き振り返る。私はいつも迷惑をかけないように「すみません」と言いながら端っこを歩いていた。

いつも何かと肩身が狭い。「普通じゃない」ということで小児科に受診を断られたりすることもあって驚いたが、世の中そういうものなんだと落とし込むしかないのか。

でももうたぶん大丈夫、ジャズが応援してくれる。理不尽なことはたくさんあり気持ちが落ち込むけれど、レジェンドの演奏に思いを馳せて、胸を張って少しずつ日の当たる道の方へ進もう。