ホルモンバランスの波と精神的な波のとあるポイントがかぶった時、我を忘れて、誰でもいい、棒でもいいから突っ込んで欲しいという感情に襲われることがある。
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品のない表現で申し訳ない。さみしさと性欲が混じり合ったなんとも形容しがたい衝動だ。今まさに出産適齢期という年齢的なものもあるのかもしれない。
ということを数年前、精神科病棟に入院している時に、常連患者のおじさんと話していた。おじさんは意外にも「男の人より女の人の方がそういう衝動が激しいのにさ、その割には女性には風俗とかねぇからさ、大変だよなぁって思う」と反応していた。
後から知ったが、おじさんは職業柄、数多の女性と関わりがあったらしく、女性への理解が深いおじさんであった。そしてその衝動を「ガギーン!」と表現していた。ガギーンってなんやねんって思うかもしれないが、まさしくガギーンなのである。
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私はそのガギーンをどうしていたかというと、マッチングアプリで解消していた。こう書くとすごく語弊がありそうだ。マッチングアプリで男を漁り、手当たり次第ホテルへGOしていたかのような印象を受けるだろう。しかし私のガギーンは衝動の強さとは裏腹に、マッチングアプリでいいねをもらい、少しやりとりしただけで紛らわせることができた。
手持ちの理性と倫理観と男性経験では、マッチングアプリ経由で男性と会うというハードルは、私には越えられなかったのもあるだろう。画面上でのちやほやで満足できた。男性側は大抵、いいねするのにも、女性とやりとりするのにも料金が発生する。私の自慰のようなマッチングアプリの使用に付き合わされた男性たちはとんだ災難だっただろう。ちなみにこう対処していることをおじさんに言ったら「あんた賢いねぇ」と感心された。
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そもそもマッチングアプリって全体的にめんどくさい。やりとりもめんどくさいが、プロフィールがめんどくさい。そして頑張って埋めたプロフィールもろくに読まずにいいねして、とにかくマッチングしたがる男性が多い。おそらく居住地と年齢でいいねして、相手から選ばれるかどうかという戦法なのだろう。
なぜ読んでいないと思うかというと、私はそれを子供を希望するかどうかという質問で判断していた。「子供が欲しい」、「相談して決める」、「子供が欲しくない」の3択の質問があるのだが、私はいいねの選別がめんどくさいので思い切って「子供が欲しくない」を選んだ。嘘ではなく、実際にそういう価値観である。それなのに「子供が欲しい」を選んでいる男性からいいねが来るのだ。たくさんある質問の中で、これは一番大事な価値観だと思うし、そうそう変わらないと思うのだが。そんな男性からいいねが来るたびに「なんだおめぇさ、日本語読めねぇからマッチングできねぇんだよバーカ」と思いながら、ゴミ箱に入れていた。二度と私の情報が出てこないようにブロックすべきだったかもしれない。
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最初はバーカバーカと思っていたのだが、次第に恐怖のような感情が出てきた。子供が欲しくない、つまり産みたくないと言っている相手に「子供が欲しいでーす!」とやってくる男性、単純に怖い。「そもそも産むのは私だが?」とも思った。男性は産まないからこそ、子供が欲しいって簡単に言えるのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、私には「子供が欲しいから相手を探す」という概念がないのだなと気づいた。「この人との子供なら産み育てたいと思えるような相手と出会ってみたい」ならわかる。それだったら私も憧れがある。結婚も似ている。「結婚したいから相手を探す」がよくわからない。「結婚したいと思えるような相手と出会いたい」ならわかるのだが。言い方の問題ではないと思う。この微妙な差異は大きい価値観の違いだと思う。
そんなことを考えていたら私のガギーンは消えていた。マッチングアプリで紛らわせていたのではなく、萎えていたのかもしれない。