付き合い始めた頃から振り返ってみても、彼から私への「かわいい」よりも、私から彼への「かわいい」の発言回数のほうが圧倒的に多い。

結婚して丸2年が経ったが、私は未だに彼に対して「かわいい」とちょくちょく言ってしまう。憎たらしいと思うこともため息をつかされることもたくさんあるはずなのに、彼の「かわいい」を目の当たりにすると、どうしても太刀打ちできない。

男性に対する発言として、一般的にはふさわしくないのかもしれない。実際、「かわいいって何だよ」と彼は困ったり呆れたりする様子を見せる。でもそれは10回中2回くらいで、残りの8回はまんざらでもなさそうな表情を浮かべている。彼は、自分がかわいいことをそれなりに自覚している。だいぶ、あざとい。

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彼を「かわいい」たらしめる要素はさまざまあるのだが、大きく影響しているのはその見た目だろう。

彼は、男性にしてはかなり小柄だ。具体的に言うと身長160cmで、筋肉もあまりついていない。なおかつかなりのインドアタイプだから色も白い

顔立ちは、ぱっちり二重で目がきゅるきゅるしてるとか、アイドルみたいに整っているとかそういうことではないのだが、素朴な愛らしさがあると私は思っている。私の妹にも、「キャラクター感があるよね」と評されている。アラレちゃんみたいな大きいメガネをかけているせいもあるかもしれない。

動物にたとえるなら、コツメカワウソ、オコジョ、チワックスあたりだろうか。佇まいから醸し出される、ひょこひょこっとした小動物感。

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「身長はいまさらどうにもならないしもう諦めてる」とこざっぱりした口調で彼は言うが、たまに「どうせ僕は小っちゃいから」と毒づくこともある。たとえばシンクの上の戸棚にしまってある鍋を取り出そうとするとき、背伸びをしても彼はぎりぎり届かない。「ううっ、くそ」とうめき声を上げながら頑張って手を伸ばしている様子を見かねた私が後ろから近づき、同じように背伸びをすると私の手は届いてしまう。

「はい、どうぞ」と代わりに取り出した鍋を渡すと、彼はいつも唇を尖らせる。

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身長164cmという、女にしてはやや高めな私の背丈がいけないという自覚はある。基本的にヒールが高い靴は買わないけれど、それでもちょっと底が厚めの靴を履いたりすると「なんか、今日デカくない?」と彼に言われてしまう。

一般的に、カップルは身長差があったほうがいいとされている。試しにググってみたら「理想は15cm差」という内容がずらりと検索結果に表示された。改めて言うほどのことでもないかもしれないが、これは「男性が女性よりも15cm高い」ということだ。

私も、20代前半くらいまでは「外見にはそこまでこだわらないけれど、背は自分より高い人がいい」と思っていた。でも、恋愛やパートナーシップにおいて身長もさして重要視する点ではないと次第に考えを改めるようになった。

むしろ、彼と一緒に過ごすようになってからは利点を感じる場面が増えた。身長が大して変わらないおかげで、ほぼ同じ目線で話ができる。さらに、私たちは体型も似通っているから服の貸し借りもできてしまう。私の服を彼が着ることもあれば、彼の服を私が着ることもある。

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高身長の男性は確かにスタイルが良くてカッコいいのかもしれない。しかしだからといって、低身長が劣っているわけでもない。カッコ悪い、とも思わない。

身体つきが小柄だと、まず相手に威圧感を与えない。私が彼に対して感じる「かわいい」は、「愛嬌」とも言える。内面から滲み出るものもあるだろうけれど、彼は外面にも抜群の愛嬌を纏っている。

個人的に、この愛嬌というものは人生のアドバンテージになり得ると思っている。どんな状況に置かれても、愛嬌は必ず活きる時が来る。上手い具合に世の中を渡り歩いていける。だから私は、愛嬌満点の彼に対して「かわいい」と思うと同時に「つよい」という畏れも抱いている。私自身は愛嬌がそんなにないタイプだと思っているから、先天性の武器を身につけている彼がシンプルに羨ましい。

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時たま私も「かわいい」と彼に言われることがあるが、その度に「◯◯くんには負けるけどね」とおとなしく降伏する。返ってくるのは「まあねー」という彼の得意げな顔。えっへん。そんな言葉もとても似合う。

「かわいい」は、女から男に向けて言ったっていい。かわいい女性がいるのなら、かわいい男性がいたっていい。それに、この先年を重ねるにつれて、決してかわいいとは思えないただのオジサンになってしまうかもしれないわけだし(もちろん私もただのオバサンになっていくだろう)、「かわいい」は言えるうちにたくさん言っておこう。

そんな私は、髪をぴょんぴょん跳ね散らかした遅起き&まだまだ寝ぼけまなこの彼を見て、「おはよう。相変わらずかわいいね」と今日も口にする。