これは私が学生の頃の実体験だ。
未成年の私がマッチングアプリで知り合った大人の男性に夢中になるそんな話。

昔から大人の余裕に憧れを持っていた。
マッチした彼はゆったりとした関西弁が特徴的な年上男性だった。

「マオくんでええよ」

私の真面目なメッセージにも丁寧に返信をくれて優しいし最高!
中国語でマオ=猫だし、本物の猫ちゃんじゃん!なんて、浮かれた頭で思っていた。
どんどん仲良くなりマチアプを通し別のメッセージアプリIDを交換しあい通話もする仲になった。その時の私は、自分の話を聞いてくれて優しい言葉をくれる会ったことも無い年上の彼との恋愛ごっこに夢中になっていた。

◎          ◎

時計の針は23時、外は真っ暗で辺りはシンとしていた。
効率よく進めることが得意な友人たちはとうに課題を終わらせ既に就寝していた。そんな中、何が大切か要点も分からないままにただただレポートを書き殴っていた。明日締切のレポート課題と私のタイムアタックでもあった。

鬼の形相でペンを持つ私に1件のメッセージが届く。

「ちょっと聞いてや、最近オレ配信頑張ってんで」

衝撃の一言だった。飛びつくように開いてしまい届いたばかりのメッセージにすぐ既読をつけてしまう。

「やばっ、既読つけちゃった」

焦っていると続けざまのメッセージが届く。

「前にオレの声褒めてくれたやろ?嬉しかったから始めてみたんだ」

私は彼の低すぎず高すぎないゆっくりと発される声を好ましく思っていた。
素敵な声、落ち着く声ですね。と褒めたことがきっかけでまさか配信者になるなんて。

「配信デビューおめでとう、私も後で見に行くね*˙︶˙*)ノ」

祝福のメッセージに笑顔の顔文字とは裏腹に私の心は穏やかじゃなかった。
日々のストレスからの解放彼との癒しの時間が公のものに変わってしまう。無くなってしまう。もう、今までのようにくだらない話をダラダラと話せないと自分のことばかり考えていた。

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実際に配信を見に行くと、始めたばかりにもかかわらず女性から人気があるようでリスナーからのコメントに笑顔で返し和やかに配信していた。

「あっ!皆見て、来てくれたで~!」

私が入れたコメントに気づき彼が嬉しそうに話す。

「上がってきて!話そうや」

今までコラボで上げていたリスナーさんを下ろし私が話す。
誰?声かわいい。どんな関係?仲良いね。などコメントが流れていく。

彼はなんて言うんだろう。本当に配信をやっていくならファンの為にも色恋を匂わせる発言は控えたりするのだろうか、妹みたいな存在~とか言われたりする?など頭の中は期待でいっぱいだった。

「年下やけど俺にとってはマネージャーみたいな存在、マジで出会わなかったら配信やってなかったわ」

ガツン、と頭が揺れた。私は、マネージャー?

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私は、どうだろう。正直な気持ちとして友達以上の恋愛感情の様なものを持っていたと思う。彼の一言に期待して、一喜一憂し毎日23時の通話を楽しみにしていた。
何も考えられない頭で、迷惑だけは掛けたくないと一生懸命笑顔を作り話をしてその回の配信は無事終了を迎えた。
その後、彼から弁明の様なメッセージがきていたが見る気にはもうならなかった。

それから、私は目が覚めた。住む場所も、年齢も違う。現実では会ったことがない大人の男性。顔と声しか知らなかった。

私はなんにも、なーんにも知らない人と毎日通話して恋愛感情の様なものを抱いてしまっていた。
それから何度か、マオくんのことを忘れた頃にマチアプを入れていた。だが、自分を知らない誰かからいいねを貰いメッセージを重ねることに抵抗感を覚えてしまいインストールとアンインストールを繰り返している。

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顔も名前も住んでいる場所も嘘と本当がごちゃまぜ。そんな中でもらえる下心の透けた薄っぺらい「好き」と甘い言葉たち。

初めは戸惑っていたが私も染まってゆき、嘘の名前に嘘の写真、嘘の住所でトリプル嘘つきになっていた。進化ではなく間違いなく退化であろう。好きと吐く言葉も嘘嘘嘘、嘘まみれであった。もう懲り懲りである。

最後に、私にとってのマチアプは苦い経験と薄っぺらい恋人ごっこのツールであった。しかし、周りにマチアプをきっかけに知り合い、結婚された方も多くいる。
その人の使い方と相手への見極めが正しければ素敵な縁を結んでくれるデジタル神社」、そんな言葉がぴったりなマチアプの更なる進化をひっそり期待しておこうと思う(懲りないやつだ)