大学生の頃までファッションセンスに自信がなく、アパレルショップでウィンドウショッピングするのが苦手だった私。
冬場は黒のスキニーに無難なカラーのリブニットを交互に着る。
自意識過剰だが店員さんに「こんなダサい客、うちの服に合わないんだけど」と思われていないかの恐怖感で、入店1分もしないでアパレルショップをあとにするのがお決まりだった。

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あれから5年ほど経った今。
身体のラインを拾うようなタイトなニットワンピースと、大きめのパールのイヤリング、そして昔おにぎりさんに買ってもらったハンドバッグ(私の能力の対価か男の下心か。「パパ活」で手に入れたブランドバッグ)を片手にウィンドウショッピングをする。

心なしか店員さんも「この客なら買ってくれるぞ」と見定めてくれるのか、店内で声を掛けてもらえることも多くなった気がするので、少しばかりファッションセンスに自信がついた。

かつてファッションセンスに対する自信が皆無だった頃に、生まれながらにして持った一種の才能をブティックで発揮したエピソードを話そう。

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大学生時代、私がバイトをしていたのは東京・自由が丘にあるドラッグストア。
自由が丘は高級住宅街で、私が働いていたドラッグストアにも近所に住んでいらっしゃる数々の芸能人が足を運んでいた。

そんなオシャレタウン・自由が丘には、CM撮影で使われるようなセンスのいいお花屋さんや、有名パティシエのケーキ屋さんが立ち並ぶ。

そしてバイト先のドラッグストアの並びに、オシャレなショーウィンドウが目を引くブティックもあった。
自由が丘の素敵なマダム達が出入りするのをよく見ていたので前から気になっていたお店。

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ある日、バイトに行く前に時間があり、以前から興味を持っていたそのブティックに足を運んでみることにした。

バイト前ということもあり、規定の黒スキニーにとりあえずアイボリーのリブニットを着ていた。
リブニットは網目が縦方向なのでファッションセンスのない私は「オシャレに見えそう」との判断で好きこのんで選んでいた。

このアイボリーのリブニットは、地元に帰省した時にショッピングモールで購入したもの。
しか
もアパレルショップのセール品で1,000円だったことさえ覚えている。

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「自由が丘のマダム」になりきり、大学生の私はブティックの重厚なドアを開けて足を踏み入れた。

実年齢よりプラス10歳は上に見られやすい容姿も相まって、どうやらマダムになりきれていた模様。
店員さんがすぐにこちらに向かってきた。
これまで駅ビルに入っているようなアパレルショップに行ってもあまり声を掛けられたことがなかった私は、その店員さんの勢いに圧倒された。

どんな服が店内に置いてあったかも覚えていないが、その店員さんが満面の笑みで開口一番こう話しかけてきた。

「お客様!もしかして当店のリブニット、着て来てくださったんですか?」
咄嗟の判断が合っていたのかは分からないが、「いやー......」と、どっちつかずな返答をする私。

店員さんにそんな微妙な表情を浮かべる私はなんのその。食い気味で「ありがとうございます!」と言ってきた。

私の1,000円のリブニットを、自分のお店の1万円のリブニットと見間違えた店員さんむげにはできなかったので、「ちょっと色々拝見させていただきますね〜」と、「自由が丘のマダム」を装い、サラッと店内を1周して、足早にバイト先に向かった。

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どうやら私には「安い服を高く見せる才能」があるらしい。
ちなみに冒頭で話した現在着ているタイトなニットワンピースは通販サイトで2,000円だった。

あのリブニット事件のおかげで、私が生まれ持った一種の才能が見出されたのだと思うと、なかなか面白い体験だったように思う。

あなたの服はあなたをどう見せているのか?
身近な人に尋ねてみるのもいいかもしれない。