高校時代の友人から、久々にLINEが来た。彼女とは一度も同じクラスになったことはなかったが、ともに美術部員だった。

部内で一番の仲良しって感じではない。私たちの代は14人いて、いつも一緒にいる相手は互いに別にいたのだ。それでも在学中には歌い手さんのイベントに一緒に行ったりして、何度か遊んだ。描くのに飽きたり疲れたりしたときには駄弁りにいった。

みんなでダイエットしよう、と言って、数人で部室内でランニング(狭いので進まずに同じ場所で足踏みしていた)したりもしていた。結果、別に誰も痩せていなかった。

卒業後も何度か飲みに行って、恋人の愚痴に花を咲かせた。2人とも度を超えてお金にルーズなパートナーがいたから、話題が尽きることはなかったのである。

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そんな彼女から、数年ぶりのLINE。開くと、こう書いてあった。

「久しぶり! 今仕事で母の日ギフト扱ってるんだけどノルマがあって、買ってもらえないかな」「ずっと連絡してなかったのにいきなりごめん」

別に失望はしなかった。一応ごめんと言ってくれているし、軽く扱われているとは感じなかった。彼女は数年前に運送会社に転職している。同業他社に勤めている知り合いも、ノルマがキツくて季節ごとに必ず何か買い取りさせられる、という話をしていた。彼女もきっと大変なのだろう。

しかし、買ってあげようとは思わなかった。私は筋金入りのケチなのである。それに、母の日は毎回ランチを奢ることにしている。元々買う予定のある品ならともかく、必要の無いものを優しさだけで買おうとは思えない。
しかし、どう断るか。それが問題だった。

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まず一番に浮かんだのは「もう母の日のプレゼント買っちゃったんだよね」という方向性。最も角は立たないのではないか、と思ったが、すぐに失策であることに気づいた。この言い方だと、「じゃあ父の日ギフトもあるよ!」などと返された場合、重ねて断るのが難しい。

先述した知り合いは、12月はクリスマスケーキ、1月はおせち、2月は恵方巻き、というように、実に多彩な商品を買わされていた。ここで曖昧な返事をすれば、いずれまた別の商品の打診が来るかもしれない。そのときが来れば再び断ればいいのだけど、それはそれで心苦しい。

では、どんな言葉が適切か。少し考えて一つの答えに辿り着いた。

「その会社に勤めてる友達が他にいて、そういうギフトみたいなの全部その子から買うことにしちゃってるんだよね」

これだったら柔らかく、かつ次回に繋げずに断ることができるのではなかろうか。
よし、これで行こう。そう決めたものの、具体的な文章を推敲するのにはまたエネルギーが要る。後にしよう、と思ってしまったのが良くなかった。

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私には元々先延ばし癖がある。億劫でない内容でも、数日置いて返信してしまうことがザラにある。そんな私がこのような気を遣う返信を、後回しにしないわけがなかった。

気づいたら1週間経過しており、もうなんと返せばいいか分からなくなった。普通の内容なら「ゴメン忘れてた!」で良いかもしれないが、この場合のそれはちょっと白々しい気がする。などなど考え過ぎた結果、余計に返信出来ず、今現在も放置したままだ。

あぁもう、こんなつもりじゃなかったのに。買ってあげるほどの優しさはなくとも、やんわりした返信をしようとしてたのに。自らの怠惰さによって、学生時代をともに過ごした仲間との記憶が、少し濁ってしまった。

ノルマなんて存在しなければ、あの子からこんなLINEが来ることもなかっただろうに。自分の落ち度を棚に上げ、世の中を逆恨みした。