どれだけインターネットで検索をかけても、私たちの関係を表す言葉は見つからない。友達ともライバルとも違う、私と「あの子」の不思議で、だけど私にとっては不可欠な関係だ。
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出会ったのは、小学校6年生の春。今は23歳になったので、もう11年?12年?前のことになる。当時、私たちは中学受験のための塾に通っていた。成績はお互い中の上というところ。私はそれぞれの科目で平均点よりやや上を取るタイプ。算数は比較的苦手。
「あの子」は算数と社会が抜群に得意で、苦手な国語と理科をカバーしてプラスに持ち込むタイプ。タイプはかなり異なるが、合計すると点数はあまり変わらない。週に1度行われるテストの成績順で席が並べられていたため、私と「あの子」は席が近くなることが多かった。
私の認識では「中の上タイプの子」という認識だった。存在はもちろん知っていたし、どんな子なのか気になった。ただ、人見知りだった私は、自分から話しかけることはなく、向こうも話しかけてくることはないまま数か月が経過した。
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初めて話したのは、その年の夏期講習。席は前後だった。いきなり後ろに座っている私を振り向いて、「○○女子校を目指しているんでしょ」と、ややつっけんどんに言われた。「そうだけど」と返すと、「ふーん」と言われ、会話終了。
その2日後、「あの子」も私と同じ○○女子校が第1志望だと知る。私たちは相変わらずどっこいどっこいの成績で、志望校に合格できるか否かのぎりぎりのレベルをさまよっていた。だからこそ、私たちはとてもピリピリしていた。
お互いにではなく、受験という存在に。「落ちる」という言葉に過剰に反応したり、小学生にして辛い物を食べたがったりすることは日常茶飯事だった。そんなある日、ついに「あの子」が私に手を出した!シャーペンで私のすねを刺してきた。
「いたっ!」と悲鳴を上げると、「イライラしてるの」とそっけなく答える。ここでやられるだけの私ではないので、やり返す。結局、私たちのすねには刺し跡で北斗七星ができた。1回きりの出来事ではない。受験が終わるまで続いた。
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そんなこんなで受験期を過ごした私たち。「あの子」には負けない。そんな気持ちで毎週あるテストを乗り越え、小学生のくせ暗記ノートを作り、受験勉強に励んだ。同じ女子校を第1志望にしている子は塾に何人もいて、私は彼女たちの成績もチェックしていたが、その中でも「あの子」のことは特に意識した。そう、彼女は敵だった。
いよいよ、受験の日がやってきた。「頑張ろう」と言い合うことはなかったが、当時集中力が上がると言われたアイテム、ブドウ糖をお互いに交換した。そしてそのとき、私は「あの子」の受験番号を知ってしまった。
受験発表は次の日にインターネットで発表された。私は母とふたりでパソコン画面をのぞき込んだ。「あの子」の番号がない。まず気づいたのはそれだった。母は、私の番号を見つけ、飛び上がって喜び、抱きついた。ただ、私は立ち尽くした。嬉しい気持ちはもちろんある。だけど「あの子」はいないのか……。
誰よりも敵だと思っていた「あの子」は、実は誰よりも私に力を与える存在だったことに気づく。携帯電話は持っていなかったけど、せめて電話番号か住所を聞いておけばよかった。いまさらながら後悔した。
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4月、私たちは中学生になった。180人近くの人数がいる名簿を見ると、なんと「あの子」の名前がある。クラスは違ったが、「あの子」がいる。真っ先に「あの子」のクラスに向かう。思わず「いると思わなかった!」と言ってしまう。「失礼だな。どうせ追加合格だよ」とそっぽを向いて返される。だけど、それでいい。「あの子」は敵でも味方でも友達でもない、だけど私にとっては力をもらえる、大切な存在だ。