「わたし、マッチングアプリ向いてないなぁ」とは早い段階でわかった。

「初めまして!なんてお呼びすればよろしいですか?」から始まるメッセージ。

会う約束をしてみても、メッセージ上で誰となんの話をしたか覚えていなくて、「なんの仕事してる人だっけ」と、待ち合わせに向かう途中でメッセージを読み返す。だから踏み込んだ話もできなくて、また会いたいと思える人はほとんどいなかった。

◎          ◎

けれど、その人は少し違っていた。
たくさん並んでいる男性の写真の中で、彼を見つけた瞬間「あ」と思った。
わたしのつけた「いいね」に「いいね」が返ってきて、「マッチング成立」の表示を見た時、やった、と小さく叫んだ。
頑張ってメッセージを続けて、会う約束をした。

初めて会う日は偶然にも12月25日で、おしゃれなレストランのクリスマスコースを予約してくれた。

「かるぴすさんですか?」

待ち合わせ場所に現れた彼は、遠慮がちにわたしに尋ねた。黒縁の眼鏡、優しそうな表情、きちんとした服装。すべてが想像以上に素敵に見えた。

初めて会ったと思えないくらい話が弾んだ。お互いの仕事のこと、中高でやっていた部活、大学でやっていた研究、これまでの恋愛のこと。
LINEを交換して、当然みたいに次回の約束をして別れた。

◎          ◎

毎日LINEをした。
次に会うのが楽しみで、仕事を頑張った。
マッチングアプリはまた開かなくなって、アンインストールした。

2回目に会った時は映画を見に行った。
3回目には、行きたいけれどちょっと遠いと思っていたレストランに車で連れて行ってくれた。

「もう少し時間ある?」

レストランを出た後そんなふうに言われたときも、だから、「もちろん」と頷いた。
彼が車を停めたのは、小さな山の上にある、夜景の見えるバーだった。中には静かにジャズがかかっている。窓際の席に座ると、キラキラと輝く光がたくさん見えた。

「付き合ってもらえますか」

その言葉を、予想しなかったと言ったら嘘になる。
3回目のデート。夜景の見えるバー。まるでマニュアルみたいに完璧だった。
けれど、わたしはすぐに首を縦にふれなかった。

「考えさせてください」

そう言って、そのまま家まで送ってもらった。

◎          ◎

翌日から、バーでの告白などなかったみたいに、もはや日課となっていたLINEをだらだらと続けた。
けれど、わたしが彼からのLINEを開く頻度は、来るたびすぐに、から、1日に1回になり、2日に1回になった。
彼は特に何も言わなかった。返事が遅いことを責めるわけでもなく、急かすわけでもない。

ただ淡々と返信が来るだけだった。
そのまま、だんだん話す内容がなくなって、LINEは途切れた。告白の返事は、ついにしないままだった。

どうしてこうなったのかわからない。
なんとなく合わなかったLINEのペースのせいか。
何度も会ううちに少しずつ尽きていった話題のせいか。
告白した時に話してくれた、少しヘビーな過去の恋愛の話のせいか。

わたしは結局彼のなにをほんとうに知っていたのだろうか。教えてくれた名前も、年齢も、職業も、正しいか確かめたことはなかった。彼が言ってくれた「付き合って」の言葉さえ、どれくらい真剣に言っているのか、今となっては確かめようもない。

「マッチングアプリ向いてないなぁ」

そう呟きながら、わたしは一度消したアプリをまたインストールした。