あなたはいくらですか?

お酒を飲み交わすお水のお店で、肌の白い彼は真剣な眼差しのままカタコトの日本語でそう問うてきた。

ドリンクですか?
それとも、指名料の金額ですか?

彼は「No, No」と首を横に振り、優しく微笑んだ。
あなたと別部屋に移動する金額はいくらですか?

VIP料金のことだろうか、と考えていた束の間、腰に手を添えられて一言。

今夜あなたを連れて帰る金額を教えてほしい。

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ああ、彼はお持ち帰りをしようとしているんだ。目の前のお客さんはキャバクラを体験しに来た外国人ではなく、当たり前のように性欲を持った人間なんだと気づかされた。怖いから抜けたい、そう思った瞬間、一緒に来ていた日本人が「日本のキャバクラはそんなお店じゃないんだよ」と窘めてくれた。そこでようやく意味がわかった。日本と海外では、そもそもサービスが違うということに。

彼が生活する国では、お酒を飲むお店は大体1階にあり、その上の階は個室になっていることが多いらしい。お店で気に入った子がいれば、直接いくらになるのか交渉する。そして合意取れると、上の階に移動して事を為す。つまり、飲み屋はその日に買う女の子を選ぶ場所であるらしい。事実かどうかはわからないが、彼のつたない日本語と訛りのある英語からはそう聞き取れた。

少し前に、来日した外国人や在住している外国人向けのデリバリーエステサービスで働く知り合いに、その日のことを話した。彼女曰く、外国人客は本番強要をよくするし、それが当たり前とすら思っているらしい。時には、かなりのチップを積んででも、最後まですることを望む。「まあ、海外ではフルコースが基本で、日本が法律的にできないだけなんだよね」と彼女はどうしようもないと言いたげな声で呟いた。

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それからの私は、少し海外からのお客さまが怖くなった。彼らからしたら、私は金額次第で今夜を共にしてくれる女なわけで、見られているのは性的魅力。お酒を飲み交わすことによって心と心の交流を大事にしていたからか、どのように接客していいかわからなくなり動けなくなった。解決するためには知らなければいけないとお水や風俗の歴史を調べた。

そもそも日本では、どの業態でも本番行為はできない。一般的に言われるソープは、入浴介助のサービスを提供しているだけ。その後は自由恋愛で事が為されたという建て付けになっている。ちょんの間とも呼ばれる料亭では、提供しているのは料理であり、従業員との自由恋愛で事が為される。すべてが自由恋愛によるものでサービスには含まれていない。しかし、外国では本番までのフルサービスが基本である。ここに日本と外国の違いがあると学んだ。

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日本で生活して法律が改正されない限り、私たちは法のもとで同意のない性行為からは守られている。もちろん海外でも、金額や感情面から同意を得られないと事に及ぶことはできない。ただし、海外のお水や風俗では本番までがサービスの基本。自分が当事者にならないと知ることもなければ興味を持つこともなかった日本と外国の違いに、これからも何度もぶつかるんだと思う。そのたびに違いを否定したり逃げたりするのではなく、学んで理解していきたい。

どこか違う国の人じゃなく、感情があり欲を持って生きる同じ人間として、どうしたらよりわかり合って共存できるのか考え続けよう。それが小さいアクションだとしても、いつかきっと、世界の平和につながると信じて。