「うらやましい。私も男に生まれたかった」
進路選択を控えた私は、男友達と進路の話をしていた。意気揚々と将来の夢を語る彼を見て私は心底そう思った。
そして彼はそんな私に将来何を専攻したいのか聞いてきた。それに対し私は「理系に進みたいけど女子は考えるべきことが多くて悩み中」と返した。すると彼は「え、男子と何が違うの?自分のやりたいことやればいいじゃん」と言った。
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私は幼い頃に見たドラマの影響で救命救急医になりたいという夢を持っている。しかし、高校生になり、本格的に進路を考える中で、救命救急医は家庭との両立が可能なのかという壁にぶちあたった。
救急医療は、予測できない重症患者の救急対応など、忙しく時間も不規則な仕事なので、結婚して出産して育児もして、という『家庭との両立』には不向きな気がしてくる。仕事が落ち着いてから家庭をもつ、といっても、女子の出産年齢には制限がある。子供を持ちながら病院からの急な呼出や夜勤に対応する為には、家事育児に時間を割ける夫を見つけるしかない。
だが、男性医師の生涯未婚率はわずか2.8%なのに対し、女性医師の生涯未婚率は35.9%というデータもある中、そんな理解のある男性は見つかるのか。医師を目指す男子はこんなこと考えたこともないだろう。
現実問題として、土日はお休みで、定時には帰れる『家庭との両立』が可能な仕事を目指していく方が良いのかもしれない、でも何で女子ばかりが家庭との両立を考えているの?と色々悩んでしまう。
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この悩みを彼に伝えると、将来を考える上で『家庭との両立』という視点をもったことがなかったと、彼はとても驚いていた。海外出張の多い父と専業主婦の母という家庭で育った彼が、その視点を持ったことすらないのは当然だ。
その数日後、彼は学校の研修でアメリカに行き、ハーバード大学を訪れた。その際に、ハーバードの研究所で働いている小児外科の先生に、医療現場における女性の立場について質問をしてきた。そして「やっぱり女性は不利なんだって」と私に報告してきた。私はまさか彼がアメリカでわざわざ質問するほど真剣に捉えているとは思わず、本当に驚いた。
なぜ彼はこの短期間でここまで行動に移すことができたのだろうか。それは、この問題を身近に感じ取ったからではないか。彼もこの世の中に男女格差があることは知っていたはずだが具体的に考えたことはなかっただろう。
しかし友達が、女子だから、という理由で進路を悩んでいることを知り、今まで他人事だった『男女差別』という問題が一気に彼の身近な問題となったのだ。
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この『自分事として捉える』ことは、様々な問題に対し行動を起こすことにつながるのかもしれない。例えば、飢餓の問題に具体的に取り組んだことがない人でも、友達から、お金がなくて1週間何も食べていない、と言われたら、自分のお弁当を分けるなど、何かできることを探すだろう。それと同様に彼も、これで何かが変わるわけではないが友達のために質問してみるか、と思ったのだろう。
彼の中ではここで終わる可能性も十分にある。しかし私の何気ない話が彼の価値観に影響を与えたかもしれないし、少なくとも彼は男女格差が身近にあることを知った。その結果、将来彼が結婚した人と家事や育児を平等に分担しようと考え、1人の女性の活躍の場が増えるかもしれない。
違和感を感じることがあったら、まずは話してみることが重要だ。そうすることで誰かの『自分事』が増え、その人の考え方が変わる。
そして自分事として捉えた人が他の人にそれを伝えることでより多くの人の自分事となり、それは問題を解決する大きな原動力となる。私の一言が社会を変える一つの要素となれたら嬉しい。