「あの人、今何してるんだっけ?」とふと思った。私の頭をよぎったのは高校の同級生だった。もうその人とは連絡を取ってもいないし、今何しているのかもわからない。でも、高校生の私にとってあの人の存在はどこか特別だったような気がする。

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高校生といえば、アオハルだ。青春。
私には異性や友人たちとのアオハルは殆どなかったが、唯一あの人といるときだけが甘酸っぱい青春のようだった。「もしかしてこれが恋なのか?」と思うような不思議な感覚があった。

最初はその人のことを「背が高くていいなぁ」とか、羨みの視線で見ていた。しかし、次第に相手のことをもっと知りたいと思うようになった。思い切って話しかけてみると、趣味の共通点が多く、休み時間や部活の時間の雑談もとても盛り上がった。
私は「これが恋かも」と思った。周りの友達からも「それって恋じゃない?」と言われたこともあり、私は「恋ってこんな感じなんだ~」とあっさりと認めてしまった。私は恋愛感情があまり理解できない人間なので、当時は「こんなもんなのかな」と淡々と受け入れてしまった。

相手のことは気になるし、知りたいと思う。でもそれ以上の感情は何も浮かばなかった。相手のことを好きだとは思う。けれど、好きって一体何だろう。友人に「それは恋だよ」と言われれば、恋になってしまうのだろうか。
確かに相手のことは好きだけれども、その思いがずっと続く確証も何もない。
友達の言葉を鵜呑みにしていたけれども、やっぱりこれは恋じゃないと、心のなかで思っていた。

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あの人との距離感が心地よかった。
あの人の声が好きだった。
あの人と趣味の話をするときがとても楽しかった。
でもあの人とは、今の恋人といる時のようなドキドキや安心感や一緒にいて幸せ!みたいな感覚はほぼ皆無。
あの人とは触れたいと思わないし、「さよなら、またね」くらい言えればそれでいい。

あ、きっとあれだ。
あの時の私とあの人との関係はあれだ。
大学の講義で聞いたことのある「スープの冷めないぐらいの関係」だ。あの人の存在はおそらく私にとってぬるいスープだったのだ。

どこかあっさりしてて、飲みやすくて、でもなかなか口に進まないあの感じ。なんとも表現し難いようなあの距離感。あれがあの人だったのだ。だからふとした時にしか、あの人のことを思い出さないのかもしれない。一年に一回、あの人のことを思い出すかどうか。気になったとしても「ま、いっか」で済む。なんとも言えないぬるいスープみたいだったあの人。

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ぬるいスープのあの人は今どこにいるのだろうか。あの人にとって私は、あの当時どんな存在だったのだろう。私にとってあなたはぬるいスープのような存在だったけれど、それを今あなたに言ったらどんな反応をするのだろうか。
「俺はスープじゃない」とか、「お前とのことなんかほとんど覚えてない」とか、きっと言うんだろうな。
でも私からしたらあの人は永遠にぬるいスープなのだ。
過去も今も、そしてこれからも。