もう朝か。はやく起きなくちゃ。
制服に着替えて朝ごはんを食べて、歯磨きをして。いつもの時間になったら家を出る。

「でも、わたし本当は……」

これは中学生になってからの話。
入学式を終え、新しい環境への期待を胸に教室の扉を開けた。その日から私の人生は大きく傾きはじめた。

「4月の末までに、どの部活動に入るか決めてください」

ホームルームで担任の先生が言った。

最初は美術部に入ろうと思っていたけれど、仲の良い友達が吹奏楽部にするというので、私も吹奏楽部に入部することにした。

「上下関係もしっかりしているし、楽器が吹けたら楽しそう」

そう、浮かれていられたのも束の間。入部してすぐ同じパートの先輩から嫌な態度を取られるようになった。

次第に先輩の言動はエスカレートし、ついに私は3月に部活を退部することにした。この事がきっかけとなり、私は人と関わる事が苦手になった。

◎          ◎

2年になると、クラスは正直最悪だった。人の努力をバカにするクラスメイト。仲の良い友達もいじめを受けた。私もいじめを受けたうちの1人だ。

いじめや嫌がらせを受けるのはこれが初めてではないし、初めはこれくらいなんて事ないと思っていた。でもそんな事はなかった。次第にエスカレートする悪口。私と仲良くしてくれている人まで巻き込まれてしまった。

当時の私は、学校は『必ず行かなきゃいけない所』だと思っていたので、休まず学校に行く理由を作るために、学級委員会の委員長に立候補した。学級委員は責任を伴う委員会だったので、こうする事で学校に行く理由を作れると思った。

だけどやっぱり、学校に行くのは怖かった。まわりの大人は助けてくれない。

「また何か言われるかもしれない」
「私のせいで友達まで巻き込むかもしれない」

そんな不安を抱えて学校へ向かう日々。家に帰っても、また明日がやって来ることへの恐怖と不安で、眠れない夜が続いた。

夜通し泣いた日もあった。悔しい気持ちで押しつぶされそうな夜もあった。真っ暗な夜の中に閉じ込められている感覚だった。

◎          ◎

それでも、私や友人を傷つけた人たちには絶対に負けたくないと思った。だから、国語の自由作文では勇気を出していじめについて読んでみた。学級委員では、他のクラス内でもいじめや嫌がらせが起きていないか調査し、学年全体でいじめを無くすための話し合いを行った。これ以上、無意味に傷つけられる人が増えないように。

これらの活動が実を結び、一部改善できたこともあったようだ。あの時勇気を出していじめについての作文を読んだことで、他にも同じように辛い思いをしていた人たちが、1人で戦っていた訳ではないと知る事ができたと、感謝の手紙をくれた事がとても印象に残っている

「相手が変わるのを待つよりも、自分が変わってしまえばよい」

つまり、相手に期待をするより自分から行動する方が良いということだ。この言葉をモットーに、学年を良くしたい一心で、学級委員生活を3年生になっても続けることにした。

3年になるとクラスも落ち着き、友人関係もだいぶ整ってきた。委員会も順調に進み、仲の良い友達がいじめられる状況も次第に減っていった。その現状を見て、自分の言動が少なからず何かを動かしたという事実を実感し、胸がジンと熱くなった。

◎          ◎

私は、中学3年間の経験を通して、1人の人間として前より少し強くなったと思う。それは、勉強で得た知識だけでなく、人との関わりについての知識も得る事ができたからだろう。

いじめは、一度きりの人生において本当に無駄な経験だと思うが、私がいじめを体験した事で、その経験を元に誰かの力になれるという大きな強みを手に入れる事ができた。断じて喜ばしい事ではないが、あの眠れなかった夜を思えば、今こうしていじめに悩まず、眠れる夜を過ごせている事が、全ての答えなのだと思う。