8月が過ぎ、今年の3分の2が終わり、またひとつ年を重ねた。

スーパーのチラシには早くも「おせちの予約会開催!」の文字が躍っているが立秋は過ぎたとはいえ猛暑の厳しい日々ではそんな先の事なんて考えられそうにない。
20代も折り返し地点を越えてそろそろ十の位が変わりそうになってきている。

「アラサー」と呼ばれる事にもなんだかまだ慣れないし、中身は10代の頃と比較してどこが成長してるんだかよく分からないのに、年齢の数字だけどんどんカウントアップしている。
小さな頃、とはいかずとも高校生の頃は大人になったら自分でもしっかりしてたりするのかな、なんて甘く考えていたのに決してそんな事はない。

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あの頃の私よ、なんかすまん。

4カ月先のことだって何も考えられてないのに、周囲はよく「もうすぐ30でしょ、なんか良い出会いとかないの?」とか「人生プラン何か考えてる?」なんて質問をぶつけてくる。

あいにく私にパートナーはまだいないし、何かを成し遂げたいとか極めたいと思っている事もない上昇志向のない人間なので、そう問われた時には曖昧に笑ってごまかし、聞き役に徹する事にしている。社会不適合なりに身につけた数少ない処世術だけど、いつだってこの技で切り抜けられるわけじゃないので時には「そろそろちゃんと考えたりしなきゃ、ズルズル年だけとっちゃうよ」なんて言われたりする事もままある。

そうだよねぇ、なんて言いながら口にする食事は、どんなに好物でも美味しくない。
大人なりに嫌な事を言われてもその場の空気をなるべく乱したりせず和やかに解散し、
その集まりには少し距離を置くようにする。気にしいで人に意見をなかなか言えないタイプだった私の、最近の変化だ。

いくら学生時代に仲が良かった友達であったとしても、ライフスタイルが変わればお互いの見える景色も少しずつ変わってくる。いつまでもくだらない話で笑い合える関係が続くとは限らないからこそ無理に合わせ続ける必要はないのだと思えるようになってきた。

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趣味も少なく出不精の私が最近ハマっているのが美術館巡りだ。

学生時代ずっと苦手意識を抱えて美術資料集に掲載された巨匠たちの作品を見ては失礼にも「こんな妙ちくりんな絵のなにがいいんだか分からん」と思っていた私が、である。
絵画をテーマにした小説を読んだ事がきっかけで美術作品を調べたり、作品を鑑賞する為に足を運んだり、大嫌いだったはずの世界史について自分から勉強したり。以前では考えられない休日の過ごし方だ。

他人から強制されない学びは、とにかく楽しい。どこまで調べたっていいし、飽きてしまったら途中でやめたって誰に咎められる事もない。1人だからこそ楽しめる趣味で、誰にも邪魔される事のない楽しみ。やった事はないけれど、イメージとしてはシュノーケリングに似ている気がする。

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深い海にどれだけ潜っていってもまだ底は見えてこない。

それでも潜り続ける内に少しずつより深く広い世界へ進んでいける感覚がある。
これからもっと色んな分野の海に潜ってみたい。
下手くそだっていい、そこから自分の「好き」を集めて大事に出来る人こそが大人なんではないかと思う。

「そんな事してたって何のお金にもならないでしょ?」という人はもちろんいるだろう。
それでも私は自分の好きな事を追及する気持ちや楽しみを手放さずにいるつもりだ。
「でも私はそれが楽しいからいいんだよ」と何でもないように返せるしなやかさを忘れずにいたい。