自分の誕生日には、未経験のことをひとつプレゼントするようにしている。
22歳になった時はピアスを開け、27歳の時は好きなアーティストのライブに出かけた。気になるカフェで少しお値段のするメニューを注文したり、普段は選ばないジャンルの映画を見たり、大したことじゃなくてもいろんな初めてをプレゼントしている。
今年はどんなプレゼントをしようか。28歳を前にリサーチしていると、ワーキングホリデー(ワーホリ)をすすめる記事に出合った。
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ワーホリの年齢制限は国によって異なるが、ほとんどが18歳から30歳。私の年齢ではもう間に合わない行き先があることが分かった。「間に合わない」「手遅れ」。まだまだ若いと思っていた20代のうちにこんな言葉を目の当たりにするなんて、なんだか悲しくなった。最後に海外に行ったのは高校3年の時で、パスポートの有効期限もとっくに過ぎている。コロナ禍もあり海外へ行く選択肢が遠のいていたが、年齢を重ねるにつれてできることが制限されていくことに焦りを感じ、資料請求だけでもすることにした。
ある日、久しぶりに会った友人がこう言った。「再来月からニュージーランドにワーホリに行くんだよね」。彼女は私と同い年で、結婚を機に退職したばかりだった。結婚し主婦になり、マイホームの計画が進む中でライフプランを考えたとき、子どもを授かる未来を想像したそうだ。家族が増えれば、自分だけの時間を持つのが難しくなる。そうなる前に、旅行ではなく、海外で暮らす経験をしてみたかったのだという。私は資料請求までで止まっていたが、同じようなことを考えていたことに驚いた。また、うれしいライフイベントを経験する喜びはありながらも「できなくなること」を基準に物事を選ばなくてはいけない現実を見た。
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20代も残り1年半。したいことと言えば、今よりも収入を増やしたい。韓国にふらっと遊びに行ける状況を作りたい。肌管理やヨガをして美しさを保つ工夫を研究したい。子どもを授かることができたらうれしい。ゆとりを感じられる暮らしの中で、気ままに文章を書いていたい。いくつか挙げて気付いたけれど、今すぐ叶えたいことというよりも、今から取り組んで30代で花を咲かせられたらいいな、というような内容ばかりだ。
20代はあっという間だった。仕事のこと、病気のこと、結婚のこと、いろんな決断を重ねて自分の人生をつくってきた。K−popという趣味にも出合い、新しい世界をのぞく経験もした。それなりに充実できたと思う反面、28歳の人間としてどれだけ成熟できているかと問われたらほとんど自信がない。未熟なアラサー……。なんだかとても中途半端で恥ずかしい。それならば早く30歳を迎えて、30代の新人として生きたい気もする。こういう考えもあって、最近は30代に憧れを抱いている。憧れというより、自分への期待に近いのかもしれない。未来に期待できない暗闇を歩いていた20代半ばのことを思うと、30代をどう生きたいかを軸に物事を考えられている今が幸せなことに気付く。よく生きている。こういうことを繰り返しながら、よりよい人生を目指していくのだろうなと思う。
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SNSで「若いうちにした方がいいこと」などの投稿を見ることがある。人生の先輩のアドバイスとして納得できる部分もあれば、軽い脅しのようにも取れる内容もあって、なんだかすっきりしないなと思うことも。これから先、ワーホリのように年齢制限に直面することがあるだろう。ああしておけば、こうしておけばと後悔することも出てくるだろう。それでも私は、年齢という数字に振り回されないよう意識したい。焦らず、今の正直な気持ちに従う。そして少し先の未来を思い描けたら100点だ。最適だと言われているタイミングが全てではないし、一度諦めたことも考え方を変えたら実現できる可能性だってある。カウントダウンに追われ息を切らしながら駆け足で向かうのではなく、スキップできるくらいの軽やかな足取りで30代の扉を開きたい。