Instagramのストーリーには毎日のように友人たちの子供の写真が流れ、否応なしに成長の過程を見せつけられる。Facebookは「私事ですがこの度、」から始まる結婚の報告。私事以外に何があるというのか。たまに浮上する中高時代のグループLINEは気がつけば皆名字が変わり、アイコンはウエディングドレス姿か子供の写真。

対して私のLINEアイコンは、若手俳優とのツーショットチェキである。

私は30歳を目前にして、若手俳優に夢中になっていた。
それもただのファンではない。いわゆるガチ恋寄りのオタクである。
ガチ恋とは「ガチに恋してる」の略。自分で言うのもなんだが、「独身アラサーガチ恋若手俳優オタク」この肩書きは結構パンチが効いている。

好きな服や靴を身にまとい、化粧をして、ガチ恋の推しに会いにいく

年収のほとんどを若手俳優である推しに注ぎ込んだ。舞台やイベント、グッズ。同じ舞台に何十回と通い、同じグッズを大量に買う。ブロマイドは全種類買わないと気が済まない。
きちんと計算するのは怖いが、恐らく新車のプリウスを2台購入できるくらいは推しに使った。

結婚したいとか、子供が欲しいとか、そういう感情は今のところ一切ない。彼氏も要らない。推し以外の男性に興味がない。推し以外の男性にどう思われようが、何を言われようが、「左様でございますか。」という感じである。
ただ、推しに不快感を与えたくないので身なりには気を使うし、金も使う。化粧品や髪の毛には金をかけるし、整形もした。
ただ、やはり若さというものには勝てない。周りのオタクの女の子たちの若いという武器に怯えながら、それでも負けじとヘアメイクをして、厚底を履いて、現場に向かうのである。

私がどんなに金を使おうが、推しと結婚できることも付き合えることもないことは百も承知。
それどころか、私は若手俳優としてパッケージ化された推ししか知ることを許されてはいないのだ。
それでもただシンプルに、楽しいからやっている。
自分の好きな服を着て、好きな化粧をして、髪の毛を可愛くして、13cmの厚底を履いて好きな人に会いにいく。
平日の、地味でくたびれきった自分の姿は偽りで、こちらが私の本当の姿だ。

私は「結婚も出来ない人」。烙印を押され、自己肯定感が大暴落

この5年間、女性の20代後半という時間を、必死で働いたお金を、私は推しのために全て使ったと言っていいと思う。そのぐらい、推しが私の全てだ。

そうして時々、冒頭のようなSNSの投稿を目にしてふと我に帰る。
「私は正しいのだろうか?」

実家の両親が犬を飼い始めた時、私は両親が孫を諦めたのだと察した。
犬は本当にかわいいが、両親にはとても悪いことをした気分だった。
2つ下の後輩が仕事でミスをした時、「結婚して家事が忙しいんです!」という謎の理由をつけてきたので「それはお客様には関係ないよ」という話をしたら「結婚も出来ない人には分からないと思いますよ」と捨て台詞を吐かれた。
恐らく、100歩…いや10,000歩譲っても私が言ったことは間違っていないと思うのだが、傷ついた。
私は「結婚も出来ない人」なのだ。

結婚できない人。
女性の幸せの選択肢は結婚しかないと本気で思い込んでいる人というのは意外と多いもので、そういう人たちのペースに飲まれた時の焦りや不安は尋常ではない。
自分に欠陥があるのではないか?誰からも必要とされない人間なのではないか?
自己肯定感の大暴落である。非常に健康に悪い。

そういった不安を解消するために結婚する人は存在する。
結婚することが目的になってしまっている友人を何人も見た。
「結婚できないとかヤバいから」と言う。
「結婚って、幸せになるためにするんじゃないの?」と聞きたくなったが、ただニコニコして聞いていた。
私にも焦りや不安があるのは事実だ。
でも、本来の目的を見失い、結婚が目的になっている人を見ると、私は哀れだ、と思ってしまう。

今の私は推しにガチ恋しているほうが幸せ。結婚がしたいんじゃない

そして気づく。私は結婚がしたいんじゃない。
ただ、幸せになりたいだけ。だから別に結婚じゃなくて良い。
SNSに投稿された、旦那さんと子供と一緒に幸せそうに写る、老けた元同級生。
私は別にそうなりたいわけじゃない。

今の私にとっては若手俳優にガチ恋しているほうが幸せなのだ。
金を使えば楽しませてくれる。そこに愛される幸せや、苦楽を共に乗り越える幸せは、無い。ただ、俳優とファンという関係だけ。それが本当に悲しくなる日もある。それでも、推しが舞台で輝いている姿を応援できる喜びや幸せに満足しているし、自分が好きな格好で、好きな人に好きなだけお金を使うことが何よりも楽しいのだ。

幸せの選択肢は多くても困らないから、私は結婚を選択肢として持っておきたいな、とは思う。
ただそれだけ。

将来結婚しようがしまいが、その時私が幸せならそれで良し。

周りに痛いと思われたって、ヤバいと思われたって、私はLINEのアイコンを変えない。ヘアメをして厚底を履いて自撮りをし、大量の推しグッズの写真とともにストーリーに載せる。
今日も私が大優勝。