前職は、人材派遣会社の営業として働いていた。新卒で入社した会社だった。
就職活動の中で唯一受けていた人材派遣会社で、正直なところ業界研究はほとんどしないまま、たまたま内定を貰って入社した。
人の役に立つような仕事がしたかった。決して希望していた業種ではなかったが、人材を欲している会社と働きたい人とを繋ぐ仕事に多少なりとも、やりがいはありそうだと感じていた。
しかし緊張しいで人見知りにもかかわらず、柄にもなく選んでしまった営業職は、私には合っていなかったようだ。テレアポ、飛び込み営業といった、特に新規開拓営業は、なかなか私にはハードだった。
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しかし、それ以上に、人を扱っている営業は辛かった。
世の中には本当に色々な人がいて、しっかりとした人も沢山いるが、約束を守れなかったり、無断欠勤をする人もざらにいる。また、食品会社なども取引先にあるため、土日祝や昼夜問わず、派遣社員の方々は働いている。トラブル対応や、入社時の付き添い等は、残業という形で行う。
このような業界の性質上、営業職はプライベートでも連絡が取れるように、社用携帯を携帯する必要があった。休日や、退勤後にメールや電話対応をすることが当たり前だった。プライベートの時間で多少なりとも仕事に割いた時間は、現地に行かなければならない時を除いて、もちろん残業にはならず。プライベートと仕事の境目を探す日々だった。
私が配属になった営業所は、家から車で片道1時間。始業開始は朝8時。始業前に、営業所のゴミを捨てに行くという謎のルールで、朝7時半には出社していた。その営業所には、早出残業という考えがなく、朝の約30分はサービス残業。
入社して2、3ヶ月程たった頃から、週に1、2回、朝や夕方に取引先に行くことになって、高速を使っていいと言われるまでは、下道で片道2時間かけて移動した。 朝の場合は、現地についてからが、始業時間。現地の集合時間は大体朝8時前。夕方や夜の場合は、現場での仕事が終わったら終業。
どうして必要以上の移動時間は残業時間に入らないのだろう。交通費を出せば解決することなのか。
恐らく法的に問題はなく、あくまで移動時間になるのだと思う。でも、交通費の実費を返してもらっただけで、車の運転中に出来ることなんてたかが知れているし、やはり自分の時間を溶かしてしまったような気持ちになる。
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長期連休があけて、出勤初日の朝一番に、上司にメールを確認したかと聞かれて、まだしていないと答えると、休みの間もメールチェックはしておいてねと言われた。悪気は無かったのだろうが、休日とは?と疑問符がついた。
また別の上司は、夜遅くにかけてくる訳ではないが、私が退勤した後に社用携帯に電話してくることが度々あった。あまりその上司と上手くいっていなかったある日、退勤後にまた電話がかかって来て、アパートの駐車場の車の中で、1度電話をスルーしてしまった。
すると、「退勤後は、電話に出ないんですか?」とメッセージが入り、私の中でプツンと張りつめていた糸が切れる音がした。
翌朝、入社してから初めて、体調不良と嘘をついて、会社を休んだ。
休日でも、退勤後でも気持ちが落ち着かない日々が続いていた。常に仕事のこと、上司のことが頭から離れなかった。社用携帯と同じ着信音がプライベートで聞こえてくると、動悸がやって来て、一気に気持ちが仕事に持っていかれてしまい落ち込んだ。日曜日は、月曜日が来るのが怖くて、楽しめなかった。
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結局、前職の仕事や働き方は私には合わなかった。心身ともに疲弊してしまい、退職した。きっと、会社の善し悪しも、相性もある。
残業に関する法改正も相まって、私たちの世代が就職活動をしている頃から、世間的にもプライベート重視とか、福利厚生重視とか、残業は少ないところが良いという風潮や認識が広まっていったように思う。
前職も、福利厚生や働き方の見直しが丁度始められていたタイミングで、私たちはその変革期に入社したのだった。
数少ない私の実体験として、前職に限らず、日本の会社には、プライベートと仕事の中間のような、よく分からない曖昧な時間が多く存在しているように感じる。全ての会社が、社員のプライベートに全振りして気を遣う必要はないと思うが、社内や社会全体として、働き方について上下関係なくフランクに話し合える環境があると良いと思う。
私自身も含め、誰も苦しみたくて働いている人はいないだろうから。