あぁ、眠れない。

真っ暗な部屋の中、枕元に置いていたスマホの明かりを付けて布団から這い出でる。
時刻は午前2時。翌日が休みだったなら、ホットココア片手に動画配信サービスを視聴し最高にチルい時間が過ごせていたことだろう。
その日はクタクタで帰ってきて寝たせいか久々に嫌な夢を見た。
おかげで変な時間に目が冴えてしまった。
嫌な夢といっても、仲が良かった女の子が出てきただけなのだ。しかし、私にとってその子は複雑な恋愛模様を思い出させるトリガー的な存在だった。

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23歳にもなって本気の恋愛ができない臆病な私を作り上げた過去。
原因は、思春期にまで遡る。
女という生き物の怖さを知った嫌な記憶だ。

当時、恋をする女の子が2人いた。
その2人は仲が良く、気も合った。
そして、好きな彼も同じだった。

1人は、頭が良く女の子らしい仕草が魅力的。
料理上手で花が好きだった。
もう1人は、特筆すべきことはなかったが周りに支えられいつも笑顔だった。

「好きな人って〇〇くん?」

花の好きな彼女が私に尋ねる。
喧嘩をしたくなくて控えめに頷いた。

「ライバルになっちゃうけど、負けないからね」

強気な彼女の言葉に心がザワついた。

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意外なことに意中の彼は私を選んでくれて、誰からみても両片思いというところまできていた。
しかし、親の引越しに伴い突然決まった転校。

幸せだった生活に転機が訪れた。
気持ちに区切りを付けるため、付き合っても遠距離になるしフラれるだろうと思いつつ彼に告白をした。しかし、遠距離でもいいと言われ、お付き合いがはじまった。

最後の登校日に送別会が開かれた。最後になるから、恋のライバルであり友達でもあった彼女から手紙と花束をもらった。

手紙は帰ったら読んでね!とこっそり渡された。
花言葉にも詳しかった彼女からのミニブーケは黄色でまとまっており友情の色かな?と嬉しく思った。
自宅に帰ってから手紙を開けて読むと今までに感じたこともない気持ちが溢れ出た。

手紙には別れが寂しい事や新天地でも頑張ってなど元気づけられる言葉が綴られていた。
そして、最後に目を疑う一言。

〇〇ちゃんが転校すると聞いて私にもチャンスがきたんだと思いました。頑張って〇〇(下の名前)にアピールしようと思う!今度は私の番だから邪魔しないでね。

これは実際の手紙を要約した内容である。

彼と付き合っている私に渡す最後の手紙がこれなんて……あんまりじゃないか!と言葉にできない気持ちがドッと溢れて涙がでた事を覚えている。

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一頻り泣いたあと、あんなに嬉しかった花束も実は友情の証ではないのではと調べた。

すると、黄色ミニバラには友情の他にも暗い花言葉が並んでいた。薄らぐ愛 、嫉妬。

今までのあの子が嘘だったの?そう思うくらい転校最終日まで彼女は普通だった。
彼と付き合い始めた私をからかい、認めたように振る舞いしかし虎視眈々と機会を伺っていたのだ。
笑顔で渡された手紙と花束には彼女の愛憎が込められていた。
恋は人を歪める。歪みはその人だけに留まらず周りにも影響を及ぼす。

彼女から受け取った愛憎を私は怖いと感じた。
そんなに本気の恋をしていたなら、譲ってしまえばよかったなんて彼に不誠実な考えも浮かぶほど動揺もしていた。
あれから、恋バナをする時には周りと被らないように気を使ったり恋愛の話を避けるようになってしまった。

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あの笑顔が怖い。でも、恋愛がしたい。本気の恋が怖い。でも、憎むくらい深く愛してみたい。
深夜の落ちた思考でまとまらないことを考え気持ちが沈んでいく。

時刻は午前3時。闇の中ブルーライトが目に刺さり頭痛がしてくる。
ガンガン、ガンガン。彼女の顔がチラつく。
私が、過去のしがらみを超えて恋をできる時はくるのだろうか。

思い出すのは、彼女の黒い笑顔と黄色の花束。
結論なんてでないくせに、考えすぎて涙が出そうだ。そっと目を閉じまた、暗闇の中。
あぁ、今日もまた眠れない。