午前1時。なかなか眠りにつけない中、天井を見上げ、好きな人の事を考えていた。パーマが掛かった茶髪、野球で鍛え上げられた筋肉質な腕、笑うと太陽の様な眩しい瞳。彼のつけている香水の香り。彼に想いを寄せてから半年が経とうとしていた。

彼は私が以前務めていた会社の元上司で、退勤後はご飯やシーシャによく連れて行ってくれたのを覚えている。入社間もなくして彼の事が好きになった。知らず知らずのうちに惹かれていたのだと思う。気配りが出来て、仕事が出来るなんて好きな理由を上げればありきたりかもしれないが、それ以上の何かに惹かれていた。当時失恋したての傷だらけだった私は、恋愛なんて懲り懲りだと思っていたのに、その気持ちをいとも簡単に崩し、私の心の大半を占めたのが彼だった。

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持病による退社後、時々連絡を取りはしていたが会ってはいなかった。会う口実も思い浮かばなかったのだ。会社という接点が無くなった今、彼とはただの他人でしかない。もう諦めようと考えていた時、LINEが鳴った。「ドライブ行かない?」。彼からだった。私は急いで化粧をし、私なりに精一杯可愛くなった。期待に胸を膨らませながら、彼が私の家の前まで来るのを待った。

彼と過ごす時間はあっという間。打ちっぱなしのゴルフとお決まりのシーシャ。他愛もない仕事の話、体調の話など。彼が急に連絡を寄越したのは私の体調が心配だったからだそう。胸が張り裂けるほど嬉しかった。ただの元部下に何故そこまで気にかけるのか、私には分からなかったからだ。

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次いつ会えるかも分からない、もう会えないかもしれない。地元に帰るかもしれないと話した時に、仕事の関係上、月に1、2度東京に行くからその時会えるよと言ってくれた。なぜ私にそこまで優しくするの?こんなに張り裂けそうな想いを押し殺してこの関係を続けるのが正解なのか私には分からなかった。空は、明るくなり始めていた。

私は精一杯の勇気を振り絞り、「いつ死ぬかお互い分からないんだから写真撮りましょうよ」と言った。数秒の沈黙と目線の交わりの後、彼は了承してくれた。少し目が潤んでいた気がするのは気のせいだろうか。緊張して手が震えてブレたけど、彼と撮った2枚のツーショット。お互い笑っている。今も好きです。もし私の人生において、最後に好きになった人が貴方だとするならば、私の人生に後悔はありません。

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彼の車が見えなくなるまで私はずっと見つめていた。これが最後ならば想いを伝えるべきだったのだろうか。本当は貴方がずっと好きでした。今でさえ、想い焦がれています。でもこんな病気持ちの私より、貴方にお似合いの人は星の数ほど沢山いる。優し過ぎる貴方だからこそ、ただ心配してくれただけだということも知っています。

でも、ただただ嬉しかった。だからこそ、貴方の幸せを願っています。どうか、その笑顔を絶やさないで。私は、この小さな地獄の中、貴方との蜜漬けの記憶の中で生き続けます。