私はコーヒーが好きだ。カフェで飲むコーヒーも、自分で淹れるコーヒーもどちらも好きだ。コーヒーは時にリラックスさせてくれ、時に潤滑油ともなる魔法の液体だと思う。
花のディスプレイがあったり、モノトーンで統一されていたりするおしゃれなカフェには目がない。都心にはおしゃれなお店が多いイメージで、行くたびに新しいお店が増えている気がする。
コーヒーを挟んで対峙することで、まだそこまで仲良くなっていないような関係性の人ともそこまで緊張せずに過ごせる気がする。会話に詰まればコーヒーを飲むことで間をもたせ、沈黙の時間を短くすることができる。コーヒーの香りが緊張を解して、リラックスさせてくれているのかもしれない。
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2年ほど前に会社の先輩と隠れ家コーヒー専門店に連れて行ってもらった。前からその建物の近くを通ると、コーヒーの匂いがするなとは思っていたが、実際に連れて行ってもらうまで、正確な店の位置を知らなかった。メイン通りから外れた路地裏にあり、入口は小さく、身を屈めてしかドアをくぐれない。まさに隠れ家だ。
店内は暗く、天井からぶら下がった豆電球を頼りに席につく。店主のいるカウンターを見ると、サイフォンがいくつも並んでいて、まるで理科の実験室を彷彿とさせた。
会話は禁止されていないそうだが、自然と口数は減る。厳かな雰囲気がそうさせるのだ。丁寧に淹れられた濃いめのコーヒーが運ばれてきた。香ばしい匂いがした。コーヒーに全身全霊で向き合う贅沢な時間だった。
会社の近くのカフェに、会社終わりに昔の上司や先輩と行くことがあるのだが、数少ないコミュニケーションの場になっている。仕事の愚痴であったり、休日に行って良かった場所、恋愛相談まで何でも話す。居酒屋でお酒を飲みながら話すことも、もちろん楽しいが、それとは違った楽しさがある。健全に会話を楽しんでいる感じがする。
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お金の節約のためにも、家から会社にコーヒーを持って行っている。社会人なりたての頃は、紙パックのコーヒーをスーパーで買って来て、マグボトルに移し替えて持って行っていた時期もあった。
微糖のアイスコーヒーがお気に入りだったが、年次を重ねるごとに忙しくなり、会社帰りにスーパーに頻繁に寄れなくなってからは、一回の荷物の量が増えるため、アイスコーヒーの紙パックを買う余裕が持てなくなった。
一時期はコールドブリューにハマっていた時期もあった。しかし、自分でドリップすることで、心が豊かになることに気づいてからは、手間はかかるが、ハンドドリップにこだわっている。湯気とともに立ち上るコーヒーの温かい香りを楽しめるのは淹れた人だけの特権だ。
お湯を沸かして、コーヒー豆を計り、お湯を注ぐだけの単純作業だが、ていねいな暮らしを実践できている実感も湧き、心が満たされる。
まだ豆から挽く時間と心の余裕はないので、挽いた豆を使って、ハンドドリップしている。いつかは豆にもこだわり、その時飲む分の豆を挽くところから始めて、コーヒータイムを楽しみたい。