「20代に戻ってやり直したいことはありますか?」
「やり直したいとは思わないけれど、10年遅く生まれたかった」

私とSさんの会話。社会人入学した大学院初日の授業。教授の提案で始まったアイスブレークの3分間インタビューだ。ペアのSさんは20代の学生。「出身は?」「趣味は?」など無難な質問の後、内容は濃くなる。

10年遅く生まれたかった理由…。長年勤めた高校を辞め50代で大学院心理学研究科に入った。新しいことをしたかった。私は何度か転職経験があり、時々人生迷い中。「子どもがいないから気楽」という他人の言葉がグサリと来ることもあるが、留まるより飛び出したい。

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気持ちを整理し、タラレバを考える。10年遅く20代を過ごしていれば、「仕事を取るか、結婚して家庭を取るか」と迫られることもなかっただろう。卵子凍結して希望の時期に子供を持つとか、「旦那はいらない」と決断し選択的シングルマザーになるとかいうこともできたかもしれない。職場で「男性を立てたほうがいい」と気を使うことも少なかっただろう。当時それらを実行するには、周りを気にしない行動力と精神力が必要だった。私は周りの空気に圧倒され、純粋な気持ちでいることが難しかった。

「10年遅く生まれていれば、女性の選択肢が多かったかな? 今は仕事をある程度やって、家庭を持って、子どもを30代後半や40代で持つこともあり得る。私が若かった頃、女が頑張ると風当たりが強かった」

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闘いを思い出す。知り合った男性のNPO関係者に「国際交流事業を手伝って」と言われ、たまたま二人きりの部屋で資料の英訳を手伝ったら抱きつかれセクハラを受けた。嫌だ! 

職場の学校。海外援助でバングラディシュに学校を作るというプランがあり、「バングラディシュだとたぶんすぐに交流できないので、日本に近いフィリピンと交流したほうが生徒のためになるかもしれません」と伝えたら、後日「なぜ君は職員みんなでやろうということに協力しない?」と先輩の同僚に怒鳴られた。誤解だ。

一緒に暮らすパートナーに「先に家に帰ったほうが食事の支度をしよう」と言ったら、「手伝ってあげたらどんないいことがあるの?」と気分を害したように言われ暴力を受けた。どうして? 

「家庭で暴力を受け、仕事をこのまま続けられないかもしれません」と上司に相談したら「転勤したいなら島にいかない?」と言われた。すぐ離島にいく発想がなかったため戸惑って断ると、「問題を抱えた職員を持って困る」というような言葉が人づてに伝わってきた。理解不能…。これらはすべて私の側の記憶。単に自分に交渉力や伝える力が足りなかっただけなのかもしれない。しかし、何が暴力か世間に共通理解がなかった。頭に浮かんだ疑問を口に出す私は生意気だったかもしれないが、誤った力の行使について相談する場所はどこかに必要だった。

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そんな私を支えたのは詩の朗読。仕事帰りの会社員が集まるポエトリー・リーディングのライブハウスで、気持ちと考えを言葉に、声にする。傍らの人に聞いてもらえて嬉しかった。参加者それぞれが思うようにならないものを抱え、世代を超えて表現しあう場。勇気を出して吐き出した言葉は、まとまりなく弾ける。すぐに問題解決はしなかったけれど、声に出すことで生き伸びる力を得た。

10年後は、女の子、女子、女性にとって生きやすい時代だろうか。誤った力の行使に正面から反対でき、理解者を得られるだろうか。不安もあるが、場所を変えれば味方はいるはず。もしすぐ味方が見つからなかったら、まず聞いてくれる場所を探そう。例えばポエトリー・リーディングはどんな人も受け入れる。違う集まりでも、違う誰かでもいい。少し動いて自分の中にエネルギーを貯めれば、次のステップに進める。きっと、大丈夫。一緒に歩こう。