先々月、大通公園のビアガーデンに行って、Apple Pencilを落とした。

なんでビアガーデンでApple Pencilを落とすんだよ、と思われたことだろう。私も、他人から同じ話を聞いたらきっとそう思う。

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この日は、1人で作業をしてから友達と合流した。カバンにiPadとApple Pencilを入れていた。ビールをガブガブ飲んで、だいぶ酔ってきたころ、私はカバンからその2点を取り出した。友達に話していた内容を、絵に描き表したくなったのだ。落書きできるような紙とペンは持っていなかったので、これらを使うことにした。

テーブルの上に出したiPadにあれこれ描いているうちに、その日の営業終了を告げるアナウンスが流れ出した。私はiPadとApple Pencilをカバンにしまい、友達と会場を後にした。…つもりだった。 

帰宅してみると、iPadのケースにいつも一緒に入っているApple Pencilが、なかった。はじめはそこまで焦らなかった。私は頻繁に物を失くすのだ。いつも通り、カバンをひっくり返しでもすれば出てくるだろうと思った。しかし、この時ばかりはいくら探しても出てきてくれなかった。

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ビアガーデンのホームページを開き、落とし物について問い合わせる電話番号を調べた。札幌について知っている人は分かるだろうが、大通公園のビアガーデンは、5丁目会場はサントリー、6丁目会場はアサヒ…というように分かれている。私はあの日飲んでいた5丁目会場の番号に電話をかけた。

観光協会の方だという男性が出た。声と話し方からして、50代くらいだろうな、という感じ。微妙に話が通じないな、と思いながら会話していたのだが、最後の方で「ところでApple Pencilってなんですか?」と聞かれ、その理由が分かった。多分、この男性は私のことを文房具の方のペンごときにやたらと執着する変な女だと思っていたのだろう。その後、実際に5丁目会場の運営を行なっていたという会社の番号を教えてもらい、今度はそちらにかけた。出たのは20〜30代と思わしき男性社員だった。私がApple Pencilを落としたのですが、と言うと、すぐに「ありましたよ!」という返答。そして既に警察署に届けたということを教えてくれた。

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警察署に電話すると、「ビアガーデンで拾われたApple Pencil」が届いているということだったので取りに行った。警察署の方が持ってきてくれたのは、第一世代のApple Pencilだった。……私が落としたのは、第二世代のApple Pencilなのに。差し出されたApple Pencilについての情報をちゃんとみると、それは8丁目会場で拾われたものだという。完全に別物である。ていうか、なんで私以外にビアガーデンでApple Pencil落としてる奴がいるんだよ。

再び運営会社の男性に電話し、経緯を説明した。その男性は5丁目の運営のみを担当しており、期間中はずっと5丁目にいたのだという。なので、確かに5丁目でApple Pencilらしきペンを拾ったらしい。売り子の女の子が普通のペンと間違えて書こうとして書けなくてアレ?ってなった、というくだりまで教えてくれた。会場では毎日大量の落し物があり、毎日その男性か店長かのどちらかが届けていたらしい。

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つまり、そもそも拾われたのが別物のApple Pencilだった、ということではないのだ。きっと電話口の男性が拾ったのは私のApple Pencilはずだ。しかし、それは警察署には届いていないのである。文房具のペンに紛れている可能性はないか、という聞き方もしてみたが、なかった。

そんなわけで、10月になった今もそのApple Pencilは行方不明ままだ。ビアガーデンのアルバイトがくすねたのか、店長が届ける途中で落としたのか、それ以外の出来事による消失なのか、分からない。真相は闇の中だ。もうこうなったら買い直すしか手はないのだけれど、一旦拾われた経緯があるだけに、微妙に諦めがつかない。無謀だとは分かりながらも、ありましたよ、という電話が警察署からかかってくることを待ってしまっている。とりあえず、お酒を飲みながらiPadとApple Pencilを取り出すのはもうやめようと、心に誓った。