男子がムカツク存在ではなかった私が「ムカつく」感情を知ったとき

「男子ってほんとムカつく!!」
体には少し小さくなりつつあるランドセルを背負いながら、女子が話していた。
私にはよくわからなかった。何がムカつくのか。
私にとって、男子は基本的に優しかったから。 

私は、休み時間の遊び方はみんなに合わせる女の子。男子が掃除をサボっても文句を言わない女の子。調理実習で班員が遊んでいても文句を言わずに皿洗いをする女の子。「ブサイクじゃん」と言われても笑って聞き流す女の子。自分がおとなしく面倒事を引き受けて、笑って流して、いさかいが起こらなければそれでいいと思っていた。
今思えば、そんな子に対してわざわざ「ムカつく」ことをする男子はいない。
そういうわけで、私にとっては「男」は「ムカつく」存在ではなかったのだ。

その認識が変わってしまったのは、つまり男が「ムカつく」という感情を知ってしまったのは、大学2年生のときだった。
半ば無理矢理家に連れて行かれて、「家に帰ります」と言ったら、「そんなことはありえない、家に来た時点で何してもいいっていうことに決まってる。ここで帰るのは裏切りものだ」と言われた。

「裏切り」の言葉を聞かされ、身体の関係を持たされた挙句の出来事

これまでの人生、私はかんぺきな優等生であり、自分が我慢することで波風を立てない、事なかれ主義の熱心な信者であった。そんな私にとって「ここで帰るのは裏切りものだ」という言葉は重く響いた。「裏切りものにはなりたくない」という謎の正義感が芽生え、そのまま半ば無理矢理身体の関係を持たされた。

数日後、驚いた。彼はそのときのことを録音していたし、私の寝ている姿を写真に収めていた。そのことは私にとって、人生に絶望するには十分すぎる事態だった。
私は、これらのデータが公開されることを恐れた。彼を怒らせないこと。彼を傷つけないこと。それが私の生活における大きな目標になった。彼に呼び出されたら授業も行かなかったし、バイトをドタキャンしたこともあったし、旅行先から帰ったこともあった。
完全に、あやつり人形。

そんな日々が数ヶ月続き、もう限界だと思った。自己中心的な欲望に私は沿いきれないし、私にも私の意思がある。複数のSNSで彼のアカウントをブロックし、連絡を断った。
あくる日、妹から電話がかかってきた。「インスタでお姉ちゃんの写真公開されてるよ!!」

理不尽でやるせない出来事を経験して、私は大切な学びを得られた

なんの写真か、すぐわかった。手の先から血が引いていった。
ここまでされて、私はようやく警察に行った。警察から彼に指導が入った。警察によると、彼は「自分はあの女に傷つけられたから復讐がしたかった」と言ったらしい。

ほんとに、ムカつく。今でも。
私は、悪くないのに。
ずっと我慢してきたのに。
ずっと自分を犠牲にしてきたのに。
理不尽だ、やるせない、ありえない。
こんなにムカつくとは、知りたくなかった。

だけど、もしかしたら、大事な学びを得たのかもしれないと思う。
私は、自分を守るために、自分の意志を言葉で主張することを学んだ。
……とでも意味付けしなきゃやってらんねえ世の中だからよぉ!!ムカつくー!