恋人がいない年数=年齢で最近まで人生を過ごしてきた。学生時代はクラスメイトが繰り広げる恋バナ耳を挟むことはあるものの自分から話を広げはしなかったし、「好き」って一体なんだろう!?と考える事もあった。みんなが憧れるような男の子に対して「かっこいいなぁ」と思うことはあってもどうもそれは好き、とは違う。素敵な人やものを見た時に感じる幸福感、「眼福」という感覚に近しい気がする。そんな恋愛に疎かった私に、つい最近人生で初めての遅い遅い春がやって来た。

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つい先日転職し、周囲の環境が大きく変わった。利用する駅も歩く街も、今までと似ているようで少し違う毎日。少ない同期の中でも1番年が近かった彼と、恋仲になったのだ。柔らかな雰囲気をまとった優しそうな人だなぁ、というのが第一印象で、実際誰にでも親切で仕事を覚えるのも早かった年下の彼に尊敬の念を抱いていた。

仕事以外で初めて話したきっかけが、利用しているバスが同じだったこと。「良かったら一緒に帰りませんか」と誘われて、その日から毎日一緒に帰るのが習慣になった。男性と仕事以外で横並びに座った経験さえない私はそれだけで何だか緊張してしまい、色んな話をしたはずなのに内容を半分も覚えていない。それも少しずつ慣れてきた頃にはほんのりと「もしかして彼のことが好きなのかもしれない」と思い始めていたものの、それを伝える勇気なんて持っていない。人生でいつも脇役を務めてきて恋愛に疎かった事もあり「いやいや彼が私のこと好きな訳ないじゃん、たまたま帰りが同じバスだから親切にしてくれてるだけだよ」と自分の気持ちに気付かないふりをしていた。もし気持ちを伝えたとして、そんなつもりなかったんです、なんて言われたらしばらく立ち直れそうになかったし、やっと打ち解けることが出来たのにこの関係性が崩れてしまうのが怖かった。

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その日もバスを待ちながらお互いの学生時代の話になった。人に話せるほどの思い出がさほどないので「学生の頃は自分なんかに話かけられたら迷惑だろうと思って、男子と話したことがほとんどない。いつもすみっこにいる子だった」と引かれるのを覚悟して正直に打ち明けると、「そんな風に自分を卑下していたら、せっかくのチャンスが来ても気が付けなくなりますよ」と真面目な顔で諭された。

そうですかねぇ、と笑ってごまかそうとした刹那、「だからいつまでも気付いてくれないんですか?」そう私に問いかけたのだ。どんなにニブい私でもこれが告白の言葉だということは分かる。驚きすぎてえっ、と間抜けな声が出て恥ずかしさのあまり顔をまっすぐ見ることも出来ない。どうにか絞り出したのは、「本当に私でいいんですか?」というなんとも後ろ向きな問いかけの言葉。初めて恋人が出来た、ということが嬉しくて、でもやっぱりどこか信じられなくてふわふわした心地で家路につき、1人で泣いてしまった。自分の中にもまだこんな無垢な感情が隠されていたんだなぁと知ることのできた不思議な日でもあった。

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恋人ができて以来自分の世界が大きく変わったのかと聞かれればそうでもない。自分に対する自信はそこまでないし、内向的な性格は相変わらず。それでも何か自分に良いことがあった時、美味しい物を食べた時、恋人にも伝えたいな、と感じることが増えた。相手の喜ぶ顔を見たいと思う時の暖かな気持ちこそが愛情なのかもしれないと年甲斐もなく思っている。