古き良き街。趣を感じられて、歩いただけで満足感が溢れだす。来てよかった、また来たい、この景色を収めておきたい、そう思えた街がある。
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初めて訪れたのは、学生のとき。学校のフィールドワークだ。県内にあるが普段暮らしている場所からは遠い存在。観光地として認識していた場所だった。一般的にも観光地として知られ、平日休日問わず観光客はいる。学校から出発するバスに乗り、数時間かけて行った。
バスが止まり、降り立った場所が古き良き町並みの始まりの場所だ。そこから小路が続き、築100年近い建物がずらりと並んでいた。奥行きもあるので、歩いても楽しい。観光スポットなので、土産や食べ歩きもできる道だ。学生だった当時は、いい街だとは思ったものの、深く感銘を受けることなく、表面的な観光をして終わった。
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私がその街を恋しくなった理由が、そこで食べた名物だ。片手で食べられるものから、店の前で立ち止まって食べるものまであり、食べ歩きをしながら観光をした。
たまたま出会ったのが、ゆずきんつばだ。きんつばは、あんこがぎっしり入っている薄皮の和菓子。あんこの美味しさがたっぷり感じられるのだが、ゆずきんつばは、あんこの美味しさよりもうゆずの香りが一番に感じられた。香りの奥ゆかしさが、町並みと合っていたことも好きだと感じられた理由の1つだろう。こんなに美味しいきんつばは初めて食べたと思った。
さらに、目の前で焼いて提供してくれるので、出来立てを味わえる。家に帰ってからもう一度食べたい、あの感動を味わいたいと思った。その場所のお土産や、地元に帰ってからきんつばが売られているコーナーを見て回ったが、なかなか出会えず、今に至るまで出会えていない。季節のフレーバーだということもあるだろうが、あの日が幻かのようにゆずきんつばには出会わない。他社商品でも見かけないので、どうしてか不思議に思っている。現地に足を運ぶこともできておらず、結局あの時が最初で最後になってしまいそうだと危惧しているのが現状だ。
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たった1回だけ、ほんの少しだけ訪れた街であり、店であったが、また行きたいと思わせてくれた。旅行は、満足する場所になりやすい。行けてよかった、と満たされて旅を終わらせがちな私。行きたいと思って計画しているとなおさら満足度が高くなり、そのまま昇華する。
そんな私がもう一度行きたい、味わいたいと思った街なのだから、今訪れたら満足度はかなり高くなるだろう。当時と同じルートをたどって、あのときの気持ちを蘇らせてみようかと思う。まだあの店は存在しているのだろうか、今はどのきんつばが季節のフレーバーとしてあるのだろうか。さすがあの店の1年を知っているわけではないので想像は難しいが、だからこそ訪れて確かめるというワクワク感を抱かせる。
私の中で、旅におけるグルメはかなり上位を占める。観光地に行けば、せっかく来たのだから、と名物を食べがち。その場所限定と書いてあれば、定番と迷った末に選ぶことも多い。
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あの街を、次の旅行先として候補に入れようと思う。仕事を頑張ったご褒美として行く場所に。学生時代に感動を覚えた観光地であり、同じ県内に住みながらもあの時が最初で最後に訪れた場所になってしまっている。旅行では、新しいところに行きがちで、そこをレパートリーに加えて1年で同じ場所を繰り返し訪れるのが、私の定番になりつつある。だからこそ、懐かしい場所に向かうのもありだろう。
今だからこそ味わえる感覚もあるかもしれない。新発見もあるだろう。おとなになったからこその楽しみ方も、さらに心に染みてくるであろう古き良き町並みも、想像すれば自然とワクワクしてくる。たった一度で魅力に取りつかれ、また行きたいと思わせてくれた街というだけあって、期待はとても大きい。楽しみだ。