「好きじゃなくなった」。そう言われた秋晴れの昼下がり。私はただただ涙を流すことしか出来なかった。
私たちの恋の始まりは急速すぎるものだった。ただのバイトの先輩と後輩。特に仲良く遊んだりする訳ではなかったが、それでもお互いなんとなく気が合うなとは感じていた。
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「付き合ってほしい」。わたしがそう言うと彼は「幸せにしてくれそう」と、そう言った。人懐っこく、少し悪めの年下の彼に私はどんどん心が惹かれていった。彼の無邪気に笑う顔や、私を愛おしそうに見る顔が大好きだった。交際は順調に進んだが、毎月のように喧嘩は絶えなかった。それでもお互いが寄り添い何度も何度も話し合って仲直りする、それがお決まりだった。彼の家族は私を温かく受け入れてくれて次第に通い同棲のような形になった。片親で育った私は、新しいお父さんが出来たような感覚で凄く嬉しかった。彼の家族が「行ってらっしゃい、おかえり」と言ってくれる度に心温まり、彼と暖かい家庭をつくりたいと、そう強く思った。2人の思い出に加え、彼の家族との思い出、彼と彼の友達との思い出が増える度に幸せを実感した。
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交際して半年が経つ頃、「好きじゃなくなった、別れたい」と言われた。彼氏が彼女に冷めて別れる、そんなのよくある話だ。私は必死に彼を引き止めた。しかし彼の意思は固く、結果お別れすることになった。何となく、彼が離れていく。そう感じていたのは事実だ。私が好きだった愛おしい顔をする彼はいつの間にか居なくなっていた。「君は君のままでいい。そういう所が好きだ」。そう言ってくれたのに、私は彼が好きだった頃と変わってないのに何度も何度も自分を責めた。頭が真っ白で息が出来なくて、苦しくて。「あぁ変わったのは私じゃなくて彼の気持ちだ」。そう気づいた。
彼自身今までの不満があったのだろう。記念日に作ったペアリングを彼はもう外していた。私は最後までペアリングを離さなかった。これを離せば本当に終わる気がしたから。そんな悪あがきも長くは続けられない。彼の表情、態度、言葉からはもう私を好きな気持ちは伝わらなかった。今まで彼は手で私の涙を拭ってくれていたが、初めてティッシュを渡された。本当に終わりなんだ。現実を受け止められずに、彼にペアリングを渡した。「捨てといて」。私の必死の強がりだった。彼の家族にお別れの挨拶をするとき、「また来てね、元気でいてね」と言われた。涙が止まらなかった。もう「行ってらっしゃい」が聞けないことに、もうこの家に帰ってくることがないことに、悲しさと苦しさと絶望感でいっぱいだった。それから私は心に穴が開いたような生活を送った。何をしても気分が上がらず、ご飯さえも喉に通らなくなった。
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いつの日か「永遠の愛なんてないよ」。そう言った私に彼は「永遠は俺が見せてやる。信じて腹くくれ」。と言った。やっぱり永遠なんてなかった。今、彼を失った私は「永遠の愛」なんてものは信じていない。毎日が苦しくて堪らず、どんどん痩せていく身体が彼が居なくなった喪失感と孤独感を物語っていく。
わたしは彼を愛していた。彼のためなら何でもできたし、何より彼に似た子どもが欲しいとまで思った。愛の定義なんて、きっと誰にも分からない。この恋も人生のほんの一部にしか過ぎないのだろう。きっとこの先彼と会う日は来ない。それでも私は永遠の愛を信じようと思う。離れたとしても最後に行き着く先が一緒ならば、それは永遠なのではないのだろうか。いつかまた逢える日を願って。大好きでした。さようなら。