中学1年生。初めての彼氏が出来た。小学校でも好きな子はいたけれど、告白したりされたり、付き合ったことは無かった。中学生になり、他の小学校からの生徒も加わって、一気に知らない子達が増えた。

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中学1年生で同じクラスになった彼。違う小学校出身で、色白で、剣道部。どんな経緯で仲良くなったんだっけ。はっきりとは覚えていない。でも確か、彼と同じ小学校出身の女の子の友達が何人か出来て、そこから話すようになった気がする。

段々と会話が増えて、いじり合ったりして、距離が縮まっていった。体育館で集会があると、クラスごとに名前の順で縦に列を作った。偶然にも、彼とはよく隣や近くになることが多く、先生の話の合間にコソコソ話したり、休憩中に話したりした。

意識し始めると、体育館の集会の時間も、また隣になるかな、なんて胸を高鳴らせて。集会が給食前だとお腹が鳴って、彼に聞こえてしまわないかとハラハラした。そんな他愛もない時間が楽しかった。

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薄々お互いに両思いだと気付いていたと思う。私の通っていた中学校では、冬季になると日が短くなるため、各々の部活の練習は控え、放課後の部活の時間は、全校生徒でグラウンドのランニングをしてから下校するという習慣があった。大会や練習試合があるとかで、部活によってはランニングの後に練習をしていた。

ある日、教室の掃除をしていた時に、彼と共通の友人から、「放課後ランニングが終わったら、体育館裏に来てくれる?」と言われた。

胸が高鳴った。

「分かった!体育館裏ね、絶対来てね!」

本当は、勘づいていた。きっと彼だ。告白、されるのかな。落ち着かない。そわそわして、ふわふわして。掃除を終えて、ランニングも終えた。いつも一緒に帰っている友人に、呼び出されたことを伝えて待っていてもらった。

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体育館裏って、漫画でしか見たことないよ。

その日体育館では、バスケ部が次の試合に向けて練習していた。行く途中、同じクラスのバスケ部男子に出くわし、なんだか笑っているように見えた。きっとこれから起こることを知っている。恥ずかしい。

ボールの音やバスケットシューズのキュッキュッという音を聴きながら、先生達の車が停まっている体育館裏に着いた。空はもう薄暗くなっていた。

そこに彼が来た。やっぱりそうだ。心臓が飛び出してしまいそうなほどうるさかった。彼もまた緊張した面持ちで、

「好きなんだけど、付き合ってくれない?」

返事はもちろん

「お願いします」

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こうして初めての彼氏が出来た。次の日、恥ずかしくて目も合わせられないし、話せないまま1日が終わろうとしていた。下校の時間になり、廊下に出るや否や、同じ小学校出身の男子から、「お前○○(彼の名前)と付き合ってんだろ?」周りに沢山人がいる中で、悪気もなく放たれた言葉。茶化していただけだろうけど、もう皆が知っている、とこうも目の当たりにしてしまうと、そのデリカシーの無さへの苛立ちや、恥ずかしさでいっぱいになった。

結局彼とはその後も話せなくなってしまった。あんなに毎日が楽しかったのに。

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付き合って少し経って、彼が勇気を振り絞って、デートに誘ってくれた。親には友人と遊びに行くと言って、駅まで送ってもらった。

電車に乗ると、ぴったり横に座るのは恥ずかしくて、少し距離を空けた。横並びの3人席に座っていて、乗車する人が増えてくると、私と彼の間に知らない人が座った。電車でも、目的地でも、知り合いに会わないかビクビクして、初めての彼氏と初めてのデート、しかも暫くちゃんと話せていない彼と、何をしたらいいか分からず、とりあえずファミレスに入った。緊張でお腹も空かず、全部食べきれずに残してしまった。結局、プリクラを撮るわけでもなく、買い物をする訳でもなく、2,3時間程で帰ることになり、帰りの電車に乗った。たった半日程度のデートだった。

そんな関係が続くわけもなく、今度も共通の友人づてに別れを告げられ、3ヶ月ほどで終わってしまった。付き合う前の方が楽しかった。私があまりにも自分から話しかけられなくて、彼には悪いことをした。きっと彼もまた、付き合うのは初めてか、慣れていない様子で、お互いにどうすればいいか分からないままだった。あまりにも初めての経験で。異性と付き合って、恋人として話したりデートしたり。周りには常に友人やクラスメイト、先生もいる環境で、どうしたらいいか分からなかった。勇気が無かった。

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後悔はもちろんある。もっとこうしていたら、と。でも、この切ない思い出も、今となっては愛おしい。また彼と、とは望まないけれど、私の初めての彼氏との甘酸っぱい思い出。彼にとっても少しはいい思い出であってくれればいいな、と思う。