このテーマで一番はじめに思い浮かんだのは、私が11ヵ月過ごしたあの街だ。私はイギリスのシェフィールドという都市に交換留学をしていた。ここで何度も留学の話を書き綴ってきたけれど、何度書いても書き足りない。記憶が新鮮なうちに、言葉に残しておきたいのかもしれない。

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さて、シェフィールドは大体の人にとって聞きなじみがないだろう。私も留学するまでその街のことは知らなかった。シェフィールドはGreen cityと呼ばれるほど公園が多く自然豊かな土地で、同時に世界中から学生が集まって大学に通っているため、人口も多く商業施設も充実している。

総じて住みやすい街だった。少なくとも田舎で生まれ育った私にとっては。

家族や友人と離れて一人、異国で暮らしはじめた。誰も私を知らない街で、何もかも違う生活。新たな門出に期待を膨らませこれまでになく充実した留学生活が待っていると思った。いつか絶対海外で勉強する!という高校生からの夢が叶ったんだ。

しかし現実は、思い描いていたキラキラな様子とはほど遠かった。人見知りの自分の性格は、ところを変えても変わることはなかった。それどころか、語学力のなさも相まって本来の自分を出せずにいた。言語の壁は意外にも高く、私の前に立ちはだかった。アメリカ英語に慣れ親しんだ私にとっては、訛りのあるイギリス英語は、英語なのに英語と判別できないような、異言語に聞こえた。

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留学前にあった自信は、ネイティブを前にひるんでしまいどこかに消えていった。オリエンテーションに参加してそれなりに他の学科の友達は増えたが、よっ友程度の表面的にしか繋がれなかった。留学先で所属していた学科には、イギリス人と1割の中国人留学生がいたが、その他の国から来た留学生は、マイノリティだった。中国人は中国人同士で固まったグループがあり、クラスメートのイギリス人は冷たい印象があったり。学科で親しい友達を作れないかと悩んだりもして。

結局のところ文化も価値観も違う彼らとは分かり合えないのかな…と留学に来た意味を問うような気分になったこともあった。少しずつ知り合いができて、会話のきっかけを探して自分から話しかけるように勇気を振り絞って、学年が終わる頃には友達の家に遊びに行けるような仲になった。

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ナイトライフと呼ばれるクラブ文化もさかんで、大学内にバーもクラブもあって、門限を気にせず友達と夜遅く遊ぶことは刺激的でとても楽しかった。母からの干渉から解放された気がした。物理的に離れてしまえば、何を言われても大丈夫。無敵だと思った。

試験期間には、課題のため図書館と大学に通った。図書館は24時間開館していてセキュリティも整備されていたことから、安心して存分に徹夜することができた。友達と集まって同じ場所で作業したりもした。大学に入ってあれほど真剣に課題に向き合えたことは今までになかった。日本にいたときは、サークルやバイトで、大学の勉強に当てる時間を十分に取れなかったから。

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毎日が違っていて、毎日が新しかった、かけがえのない留学生活の思い出。地味だけど、濃い暮らしができていた。私を成長させてくれた大好きな街。私とともに生きていたあの街。今となっては第二の故郷のような街。あの街には、たくさんの大切な友人がいる。またお金を溜めて、シェフィールドに行くからね!