「なつめちゃんは電子レンジってよく使う?」

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お茶の先生の家でお稽古をつけていただいた休憩の時に聞かれた。
曰く、電子レンジはγ線が含まれているからガンになるというらしい。ちなみに、予め言っておくが、そんな根拠はない。放射線や放射能などについての講義でもそんなことはならわなかったし、一応論文を調べてみたが、数値としてそんな結果は見られなかった。つまり、ただの根も葉もない噂だ。

困ったことにその先生は噂を事実として受け止めている。でも、誰にも迷惑をかけないのであれば、別に何を信じようと、どう解釈しようと個人の自由だ。私が疑問を抱いたのは、家では、奥さんに言ってレンジを使わないようにしたという自慢げな先生の言葉を聞いたからだ。先生は知っているのだろうか。残ったおかずを少し温めたい時にわざわざ蒸籠を出して蒸す面倒臭さを。きっと知らないだろう。知らずに、ただの噂で奥さんに何倍もの手間をかけさせ、それを当たり前だと思っている。それは、私には到底理解し得ない価値観だ。

相手が対等な立場の人なら少しくらいは思ったことを言えただろう。でも、相手は雲の上の人。何も言えるわけがない。私はただ、感じた違和感に蓋をして、博識ですねとか、丁寧で素晴らしいですねとか心にもないことばかりを口にした。

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今回のことだけじゃない。私は、先生のことは尊敬しているし、私を想って指導してくださっていることもよく分かっているつもりだけれど、やはり心から納得できないことはある。

まず、言葉選びが雑だ。
ストレスや夏バテなどで体重が落ちた私に、先生は、「やつれた?」と言ってきた。私だって痩せたくて痩せたわけじゃない。ほっそりしたとかもっと別の言い方があるだろう。夏に着物の衣紋を少し多く抜いた時も、「婀娜っぽい」と言われた。

でも、私はそれに微笑んですみませんとか、そうですねとか返さなければならない。

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もっと面倒なことには、先生はたった一度会っただけの私の恋人を気に入って、彼と別れようとする私を嗜めるのだ。自分の主張を押し付けるな、よくあること、一途に思ってくれるなんていい彼じゃないかと。

でも、いつ、私が彼に主張を押し付けた場面を見たというのだろう。私と彼の問題を知りもせずよくあることなんて雑にまとめないでいただきたい。一途に想ってもらえるだけでは、私は幸せになれない。人生でたった一人にしかそんな人と出会えないなんて、あなたに決められたくない。

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先生に限った話ではないし、私も気づかぬうちに誰かを傷つけ、地雷を踏んでいるのかもしれない。だから、偉そうなことを言うつもりはない。でも、少なくとも私は自分の受け取りたいようにしか受け取らない人でありたくないと強く思う。私と先生の立場が変わることはないし、これからだってなんども私は言葉を飲むのだろうけれど、その蓋をした言葉達が腐ってしまう前に、私はそれらを自分のありたい姿に近づくための糧にしてみせる。