私がいじめにあったのは、高校3年生の初めだった。主犯は高校2年生の間同じクラスで、親友だった女の子。ショックだった。でも、たとえいじめられても、私は彼女を心から悪い人だと思うことができずにいた。それは、2年生の秋の、とある思い出があるからである。
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「今日は皆に、大事なお知らせがある。来週からAさんが教室に戻ってくるから、皆仲良くするようにな」
そう担任に言われたのは、夏期講習の最終日、来週からいよいよ2学期が始まる、という時である。Aちゃんとは、4月のクラス替え初日以来、一度も登校していない女の子である。とても可愛らしい顔立ちをしていて、私はすぐに話しかけ少しだけ打ち解けたのだが、次の日からAちゃんが教室に姿を現すことはなかった。担任からは、病気の影響で入院していると聞かされていた。
久々の学校で、しかもある程度グループができてしまった2学期からの登校。さぞかし不安を感じていることだろう。私は1度話していたことにも背中を押されて、絶対にAちゃんに一番に話しかけよう、と強く決めてから下校した。
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当時クラスの女子は3人以上の仲良しグループが多かったが、私は親友との2人で仲が良かった。彼女は明るく温厚で、誰からも好かれるタイプ。この子ならばきっとAちゃんのことも受け入れてくれ、3人で仲良くなれるだろう。そう思った私は、「Aちゃんが来るの楽しみだね」くらいの会話しかせず、3人で仲良くなろう、といった話はどちらからも出なかった。
そして迎えた月曜日、あろうことか私は、いつもより少しだけ登校するのが遅れてしまった。Aちゃんはもう来ているだろうか、大丈夫だろうかと焦って教室の扉を開く。するとそこには、Aちゃんの机に両肘をついて、楽しげに話す私の親友と、緊張しながらも笑顔を見せるAちゃんの姿があった。親友は、事前に「Aちゃんに話しかけよう」と2人で話していたわけでもないのに、自ら進んでその役目を引き受けていたのだ。すぐに私と目が合って、「あ!おはよう!見て見て、Aちゃんだよ!」と明るい声。
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最初に話しかけるということは、これから同じグループで仲良くしようという意思表示にもなる。クラスの他グループの女子が、今から新しいメンバーを受け入れることを躊躇って、誰もがその役目を避ける中、親友は私と同じことを考えてくれていたのだ。きっと学校に行こうと決めたAちゃんの勇気や、不安を推し量った結果に違いない。その時私は、ああこの子と親友で良かった、そう思ったのである。
それから私たちは、クラスでも類を見ないほど強い絆で結ばれた、仲良し3人組になった。席替えで近くなれば大喜びし、わずか10分の休み時間の度に話しかけに行き、日帰り旅行もした。しかし、クラス替えが近づいた頃、Aちゃんからあまりに悲しい事実を告げられた。
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「実は、出席日数が足りなくて来年から転校することになった」
Aちゃんの病気とは身体的なものではなく、精神的なものであった。とてつもない恐怖と闘いながら、もがきながら、毎日学校に来てくれていたのだ。Aちゃんの苦労を知り、そして来年からは今までのように会うことができないとわかって、私たちは3人で泣いた。「離れてもずっと会い続けよう、これからも親友でいよう」と約束して、私たちはバラバラになった。いじめは、そのわずか2か月後から始まった。
今ならば、いじめをするような人がいい人であるはずがないとわかる。それでも、あの日一番にAちゃんに話しかけ、屈託のない笑顔で笑いかけた彼女のキラキラした瞳が、時々私の後ろ髪をひいては、もしかすると、あの時の彼女こそが本当の姿なんじゃないか、と思わせるのだ。あれから6年の時が経つ。彼女がどこかで、本来の自分を取り戻してくれていることを願う。